離婚するので、どうぞお構いなく~冷徹御曹司が激甘パパになるまで~
 花音と小鞠を無事に教室まで送り届けると、俺はその足で仁と待ち合わせていたカフェに向かった。休日だけれど、何やら大事な話があるらしい。
 指定されたのは、銀座にあるホテル内のカフェ。
 昼過ぎだけれど客足はまばらで、いつも混みすぎていないところが気に入っている。
 優雅なクラシックが流れる店内を案内されて奥まで進むと、窓際で仁がノートパソコンをいじっていた。
「仁、何だ話って」
「お、黎人パパ、待ってたよ」
「やめろ。お前にそう言われると鳥肌が立つ」
 相変わらずふざけたテンションの弟に、出会った瞬間から頭が痛くなる。
 彼は黒Tシャツ姿というラフな格好で、アイスティーをご機嫌な様子で飲んでいる。
「鈴鹿さんの件はお疲れ様。無事他社で回収完了したって。よかったね」
「いらぬ情報だ。本題は何だ」
「そうそう、これなんだけど」
 くるっとパソコンの画面をこちらに向けて見せてきたのは、着物の大型展示会の企画書だった。開催地は仁が経営を任されている老舗旅館。
 モデルを集めて、関係性の深い呉服屋の新作のプロモーションを行うというものだった。
「展示もCM撮影もここでまとめてやっちゃおうって考えててさ。取引先も生の空気感がCMで伝わった方がいいって」
「なるほど。あの旅館は撮影にもよく使われているし、画面的にも映えるだろう」
「うん。それでね、モデルの選抜に困っててさー。この前旅館にたまたま花音ちゃんが花を生けにきてくれたのね。で、そこにたまたま呉服屋の取引先がいて、花音ちゃんがモデルのイメージ通りだって気に入っちゃって」
「ダメだ」
「うわ、即答」
 何を言い出すかと思えば、どこまでふざけてるんだ、こいつは。
 花音を着物のモデルに推薦なんてしたら、名前も知られている分、変なファンが付いたらどうしてくれるんだ。
 彼女の美しさを評価してもらったのは嬉しいが、それを見せびらかすなんて危険はことはしたくない。
 即答で断った俺を、仁は白けた目で見つめている。
「親バカならまだしも、奥さんにも過保護って……どうなの?」
「うるさい。ダメなものはダメだ」
「えー、あの兄さんが感情だけで断ってる……」
 鬼のような目で睨みつけると、仁はへらっと笑って「分かった分かった」と企画書のページを閉じる。
 それから、カタカタとパソコンをいじって、再び違う企画書を見せてきた。
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