王宮侍女シルディーヌの受難2ー短篇-
だって、震えるほど怖い人のいる宮殿だと知ってて入るなんて、相当の勇気がいることだ。そんな思いをして入ったのに、なんの成果もなく出ていくだろうか。
「カメリアはそそっかしいだけだと思うわ?」
「……ええ、そうですね」
フリードの表情が和らいでいる。きっと念のために調べるのだ。アルフレッドが不在の今は不審者が多いらしいから、副団長も大変である。
アルフレッドが戻ってくるまであと四日。早く時が過ぎるのを願うのだった。
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王宮の人員は、使用人から王族まで含めると街ひとつ分の人口に匹敵する。
大半は王宮内で生活をしているが、貴族院など王都から通う者も多い。働いているすべての人を把握するのは難しく、部門ごとの長が管理していても、ついうっかりということもあり得るかもしれない。
「カメリアという侍女はいません」
黒龍殿に出勤したシルディーヌは、重々しく言うフリードの顔をじっと見つめた。
「私、名前を聞き間違えたのかしら」
「いいえ。容姿、そのほかの特徴などでも確認しましたが、彼女は王宮の侍女ではありません」
「え、それなら、王宮内にはもういないってことなの?」