王宮侍女シルディーヌの受難2ー短篇-

 ドSで厳しいことを言うし、たとえ『まったく、惜しくないな』なんて言われたとしても、彼がいなくなるよりマシだ。アルフレッドのことが大好きで心配なのだ。これはもう、どうしようもない。

 翡翠色の瞳を涙で濡らしてフリードを見つめれば、彼は困惑したように微笑んだ。

「団長に弱みはございませんよ。むしろ今は強みしかないでしょう。こればかりは、断言できます」

「……そうなのかしら?」

「はい……変わらずに怖いものはあるでしょうが……あ、少しの間、ここでお待ちください。リックが戻ってきました」

 そう言ってフリードは、駆けこんできたリックの元に急ぎ足で行く。リックのほかには誰もおらず、例の影は取り逃がしたようだ。

 ──逃がしてしまって、平気なのかしら。

 鬼神の団長が率いる黒龍騎士団は、近隣の国の中でも最強と謂われている。その団員が捕まえられないなんて、潜んでいた影は相当の手練れではないだろうか。

 シルディーヌはそわそわして二人を見つめた。

「それはお粗末なことだったな」

「はい……それよりも、もうひとつの……」

< 48 / 111 >

この作品をシェア

pagetop