王宮侍女シルディーヌの受難2ー短篇-
恋する乙女の心はほんの少しの不安要素でグラグラ揺れて、自信がなくなってしまうのだ。
しょんぼりしたシルディーヌは密かに嘆息した。
『パラ~パパパパッパ~パ~』
はるか遠くにいる楽師隊の奏でるラッパの音が響き、群衆がにわかに色めきたった。
「王太子殿下の隊列がご到着したぞ!」
「シルディーヌ、ほら、いらしたわよ! しっかり見なくちゃ!」
ペペロネがポンとシルディーヌの肩を叩く。
「えっ、ええ、そうね! そのために来たのだもの!」
黒龍騎士団員が乗る二頭の黒馬を先頭に、正門から隊列が入ってくる。隊列は道の中央を通ってくるが、道が狭くなっているため、人垣から騎馬まではほんの数歩ほどの距離しかないように見える。
警備にあたる団員たちが、人垣を押さえているのが目に入った。
そんな中、悠々と馬を操る先頭の騎士。クマのような大きな体は遠目にも分かる、アクトラス隊長だ。
久しぶりに見るアクトラスの姿だけで、シルディーヌの瞳がじんわり潤む。
ほんとうに、ほんとにアルフレッドが帰って来たのだ。