王宮侍女シルディーヌの受難2ー短篇-
すぐに地面に脚が着くも勢いづいた体は止まらず、前のめりになってタタタと馬車を引く馬に向かっていく。
「避けろっ」
馭者が命じながら手綱を引き、馬が激しくいなないて、振り上がる蹄と馬車が頭上に見える。
「きゃあぁぁ、シルディーヌ!」
「ダメだ! ぶつかるぞ!!」
ペペロネの叫ぶ声と誰かが怒鳴る声が混じり、場は騒然としている。
シルディーヌは避けることも止まることもできず、このまま蹄に蹴られる! と目を瞑った瞬間、腰のあたりに強い圧迫を感じて再び体が宙に浮いていた。
──え?
すとんとお尻が硬いものに当たり、同時に低い声が頭の上で響く。
「ポートマス、絶対に逃すな!」
「承知!」
──アルフ?
シルディーヌはアルフレッドの騎馬の上に乗り、しっかり抱き込まれていた。道に出た人たちは転んではいるが、駆け付けた警備員に助け起こされている。
沿道から「さすが黒龍の団長だ!」「すごいぞ!」と拍手が沸き起こるなか、アルフレッドの冷静な声が飛んだ。
「隊列を乱すな。このまま進め」
発したひと言で、乱れていた騎馬たちの足並みが元に戻り、何事もなかったかの如く帰宮パレードが続いている。