王宮侍女シルディーヌの受難2ー短篇-
「あのっ、アルフ、ペペロネたちも」
「平気だ。あの状態ならケガはしてないだろう。それよりも、お前は痛いところはないのか?」
「……ないわ。すごく、びっくりして、怖かったけれど」
「……無事ならいい」
「うん……助けてくれて、ありがとう」
久しぶりに耳にするアルフレッドの声に、胸がジーンと熱くなる。
危うく馬と馬車の下敷きになるところだったのに、彼の低い声と腕の逞しさで、恐怖心など吹き飛んでしまった。
けれど、眼下には王宮殿の侍女たちの呆然としたような顔と、ヘンリエッタの唇を噛んでいるような表情がある。
向かい側の人垣を見れば、隊列に異分子を見つけて唖然としているひとたちの姿があり……シルディーヌはハッとした。
多くの人たちは、今の一幕を見ていないのだ。
アルフレッドの腕の中で幸せに浸っている場合じゃない。旅をしていないシルディーヌは、パレードの中にいるべきじゃないのだ。
でも騎馬は王宮殿へと休むことなく動いているし、衆目の中でこっそり馬から下りるのは不可能だ。
「あ、アルフ、あのっ、私、どうしたらいい?」