初老アイドルが一般人女子との恋を成就させるまで

1 瞳

『supernova』。
日本語では超新星と言い、星が大爆発した時に突如強く輝くものを、そう呼ぶ。



その名をグループ名として冠するのが、小倉航太・北村暁・遠山一仁・今井琉星の4人組アイドルグループ「supernova」である。
今年デビュー20周年を迎え、現存するアイドルグループの中で最もグループ歴が長く、またそれ故、最もメンバー平均年齢が高い。
その活動は、歌にダンスに芝居にバラエティと多岐に渡り。近年では、グループ単位だけでなく、個々もそれぞれの能力を生かして各方面で活躍し、老若男女から人気を得ていた。
そして、先述のように今年デビュー20周年を迎えた彼らは、年明けすぐにアルバム発売、それに合わせた雑誌の取材や音楽番組への出演、加えて春は20周年記念ツアーを敢行するなど、例年以上に忙しい日々を送っていた。
そうして訪れた今年の夏、ツアーも前半戦が一息つき、少しだけ落ちつけるかと思いきや、そうは問屋が卸さない。



「今年さぁ、グループでの仕事多いよね、暁」
「そうだね、一仁。最近は個別の仕事も多かったから、みんなで地方にロケってなかなかできなかったもんね」
「…あれ?最後にメンバー全員で地方にロケ行ったのって…、いつだ?覚えてる?リーダー」
「あー…、『スパノヴァShaw!!』で行った京都旅のじゃね?琉星」



20周年という事でバラエティ番組にもメンバー全員で出演してほしいというオファーが多く、ここ数年で一番グループとしての仕事が増えていた。
グループ名を冠したバラエティのレギュラー番組、『スパノヴァShaw!!』はあるが、1度の収録で2~3本まとめて収録する関係で毎週集まるということもなく、最近はスタジオ収録ばかりだったので、彼らにとって全員での地方ロケは本当に久しぶりだった。


今日は『ハロー、yourタウン』という番組で、地方に出向き、そこでアポなし取材旅を行うというものだ。
普段はレギュラーの出演者+ゲスト1~2人という構成でロケ行われるが、今日はsupernovaの20周年記念特別版という事で、メンバーだけでのロケである。


今回訪れているのは、T県S市。東京から約1時間のところにある地方都市で、B級グルメの「Sあんかけ焼きそば」などでそれなりに有名な町だった。
まずはS市のターミナル駅に行き、そこから基本徒歩と公共交通機関で移動していく。
夏特有の熱い空気が、駅前には充満している。



「あんかけ焼きそば食べたいなー。なんか有名なお店あるんだよね?暁」
「そうそう一仁。そこは行きたいよね」
「あと何があるかな?」
「琉星、あれだよあれ、ほら…」
「え?リーダー老化?」
「うっせ!」



わちゃわちゃと話しながら、暁は駅前にいる人に声をかける。
この番組では、その街にまつわる情報は、すべて地元の人に聞いていかなければならないルールがあるのだ。
そこから4人は、Sあんかけ焼きそばのお店や、蓮の池が有名なS八幡神社、手作りのチーズやソフトクリームが有名なミルクファームという牧場を巡った。
そして、ミルクファームで念願のソフトクリームを食べ、乳しぼりや乗馬体験など一通り楽しんだ後、ミルクファームのオーナーの奥さんに、暁は、他にこの街のおすすめがあるか尋ねた。



「そうですね…、……観光地じゃなくてもいいですか?」
「と、言いますと?」
「実は、うちの娘が通ってる高校の演劇部が、全国大会に出場したんです」
「へぇー、全国大会ってすごいですね。あ、もしかして娘さんその演劇部に…?」
「ええ、今日も部活で学校に行ってます」
「何て高校ですか?」
「S第一高校です」
「ありがとうございます。行ってみます」



奥さんに礼を言って、4人はまた路線バスを使って、今度は教えてもらったS第一高校を目指す。



「ていうか、演劇部に大会とかあるんだ」
「だよね、琉星。俺も思ったー」
「でも一仁、吹奏楽もあるぞ、大会」
「そうなんだ。リーダーよく知ってるね」
「え?これってそんなマイナーな話なの?」
「まあ、文化部に大会のイメージないからね」



暁の言葉に、他の3人は大きく頷いた。
はっきりと勝敗がつく運動部と違って、文化部は勝敗の基準があいまいだ。
そもそも、競うものなのかどうかという、根本的な問題もある。
少し傾いてきた太陽の中、30分ほどバスに揺られ、一行はS第一高校に到着した。


事務室で事情を説明し、校長とロケの交渉をしたところ、快くOKしてもらえたので、皆ひっそりと胸を撫で下ろした。
件の演劇部は、校舎ではなく生活館という合宿などもできる施設の2階で活動しているとのことだったので、4人は教えてもらった生活館の場所へと向かった。
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