初老アイドルが一般人女子との恋を成就させるまで
気づけば、日はだいぶ傾いていて、射し込む西日が少し眩しく感じられる時刻になっていた。
ということは、2人がここに来て数時間は経過していることになる。
それでも、航太は茜との会話が苦痛だと感じたことは一度もなかった。
もちろん、会話がない時もあるのだが、その沈黙さえも心地よかった。
水を湛えるほどあったピッチャーは、既にほぼ空になっている。
西日と併せて、それはもうここから去らなければいけないことを示している。
まだ、帰りたくねぇな。と、航太は何の躊躇いもなく思う。
だからこそ、次に会うことのできる約束が航太は欲しかった。
だけど、今の茜との関係では、次があるか分からない。
次に会う約束ができる関係、そして、航太の茜への気持ち。
それらを考えた時、結論は一つしかなかった。
もちろん、彼女がそれを拒否する可能性だって十分にある。
それでも、今起こった感情をなかったことにすることは、もう航太にはできない。
それを彼女に告げるのは、ただの自分の我が儘だ。いい大人が我が儘を通すなんて、正直かっこ悪い。
けど、今はかっこ悪くても彼女に伝えたかった。
どんな言葉にしようか考えるけど、気の利いた言葉はこういう時一つも出てこない。
バラエティ番組に出る時のあの頭の回転は、今全く動いてくれない。
だから、今の航太に出来るのは、泥臭く、思ったままを言葉にすることだけだ。
「…茜さん」
「はい?」
「……その…、もし、茜さんがよければ…、また、会いたい」
航太の声は茜の鼓膜を通って、それが茜の中で意味のある言葉として認識される。
だが、その意味を認識することを、茜の頭は拒否をする。
いや、もう認識し理解しているのだけど、受け入れることを躊躇している。
今、航太が発した言葉、それは茜にとって、嬉しくもあり、有り得ないとも思える言葉だ。
だから茜ができるのは、ただただ目の前の航太を見つめることだけだった。
「…いや、会いたいっていうか…」
「え…?」
「また、会いたい時に会える関係に、なりたい」
航太の言葉は、茜の中にガツンとした衝撃をもたらした。
茜自身、もう既に成人を迎えて久しい大人だ。
航太の言っている『会いたいときに会える関係』が指すものが何なのか、分からない訳がない。
茜もまた、思っていた。
航太と一緒にいる時間がひどく居心地が良くて、またこの時間を過ごしたいと。
自分が気になっている相手からの嬉しい言葉。
でも、航太の立場を考えれば、それに対して素直に「うん」と言えるほど、もう子供でもない。
今日初めて沈黙が居心地悪いと、茜は思った。
「…ごめん、急に言われても困るよね」
「あ、えっと…」
「いいよ、今すぐ返事しなくても。落ち着いて考えてもらえたら。それで、断るっていう答えになっても、それはそれで大丈夫」
「航太さん…」
「ただ、俺が言いたかっただけだから」
少し情けなさそうに笑う航太に、茜はなんて言っていいか分からなくて、ただ戸惑う瞳を向けることしかできなかった。
「そろそろ帰ろっか」
「はい…」
2人は荷物を持って、1階に降りる。
その音に気付いた橘が、厨房から出てきて会計をしてくれる。
茜は、特に何も考えずに財布を出して、橘の告げた金額を聞き、ひとまず財布を開けて中身を確認する。
「あ、いいよ茜さん。俺払うから」
「え、でも」
「いいよ、俺が誘ったんだし」
「いやでも…」
「古い考えかもしれないけど、カッコつけさせてよ」
そんな風に言われては、茜はもう何も言い返せない。
茜に出来るのは、航太にお礼を言うことだけだった。
ということは、2人がここに来て数時間は経過していることになる。
それでも、航太は茜との会話が苦痛だと感じたことは一度もなかった。
もちろん、会話がない時もあるのだが、その沈黙さえも心地よかった。
水を湛えるほどあったピッチャーは、既にほぼ空になっている。
西日と併せて、それはもうここから去らなければいけないことを示している。
まだ、帰りたくねぇな。と、航太は何の躊躇いもなく思う。
だからこそ、次に会うことのできる約束が航太は欲しかった。
だけど、今の茜との関係では、次があるか分からない。
次に会う約束ができる関係、そして、航太の茜への気持ち。
それらを考えた時、結論は一つしかなかった。
もちろん、彼女がそれを拒否する可能性だって十分にある。
それでも、今起こった感情をなかったことにすることは、もう航太にはできない。
それを彼女に告げるのは、ただの自分の我が儘だ。いい大人が我が儘を通すなんて、正直かっこ悪い。
けど、今はかっこ悪くても彼女に伝えたかった。
どんな言葉にしようか考えるけど、気の利いた言葉はこういう時一つも出てこない。
バラエティ番組に出る時のあの頭の回転は、今全く動いてくれない。
だから、今の航太に出来るのは、泥臭く、思ったままを言葉にすることだけだ。
「…茜さん」
「はい?」
「……その…、もし、茜さんがよければ…、また、会いたい」
航太の声は茜の鼓膜を通って、それが茜の中で意味のある言葉として認識される。
だが、その意味を認識することを、茜の頭は拒否をする。
いや、もう認識し理解しているのだけど、受け入れることを躊躇している。
今、航太が発した言葉、それは茜にとって、嬉しくもあり、有り得ないとも思える言葉だ。
だから茜ができるのは、ただただ目の前の航太を見つめることだけだった。
「…いや、会いたいっていうか…」
「え…?」
「また、会いたい時に会える関係に、なりたい」
航太の言葉は、茜の中にガツンとした衝撃をもたらした。
茜自身、もう既に成人を迎えて久しい大人だ。
航太の言っている『会いたいときに会える関係』が指すものが何なのか、分からない訳がない。
茜もまた、思っていた。
航太と一緒にいる時間がひどく居心地が良くて、またこの時間を過ごしたいと。
自分が気になっている相手からの嬉しい言葉。
でも、航太の立場を考えれば、それに対して素直に「うん」と言えるほど、もう子供でもない。
今日初めて沈黙が居心地悪いと、茜は思った。
「…ごめん、急に言われても困るよね」
「あ、えっと…」
「いいよ、今すぐ返事しなくても。落ち着いて考えてもらえたら。それで、断るっていう答えになっても、それはそれで大丈夫」
「航太さん…」
「ただ、俺が言いたかっただけだから」
少し情けなさそうに笑う航太に、茜はなんて言っていいか分からなくて、ただ戸惑う瞳を向けることしかできなかった。
「そろそろ帰ろっか」
「はい…」
2人は荷物を持って、1階に降りる。
その音に気付いた橘が、厨房から出てきて会計をしてくれる。
茜は、特に何も考えずに財布を出して、橘の告げた金額を聞き、ひとまず財布を開けて中身を確認する。
「あ、いいよ茜さん。俺払うから」
「え、でも」
「いいよ、俺が誘ったんだし」
「いやでも…」
「古い考えかもしれないけど、カッコつけさせてよ」
そんな風に言われては、茜はもう何も言い返せない。
茜に出来るのは、航太にお礼を言うことだけだった。