初老アイドルが一般人女子との恋を成就させるまで
3カ月怒涛のリリースラッシュ期間に突入したスパノヴァは、かなり忙しい日々を送っていた。
CDをリリースするということは、もちろん前段階として多種多様な打ち合わせとレコーディングがある。
それから、ジャケット撮影とMV撮影、雑誌の取材、リリース前後の音楽番組への出演、それに付随したダンスレッスンとやらなければいけないことは山ほどある。
それが計3回分続くのだ。
もちろん、彼らの仕事はこれだけではない。
スパノヴァのメンバーたちはそれぞれソロの仕事もあり、グループとしてのレギュラー番組の収録もある。正直、ツアー中よりはるかに忙しい。
今日も今日とて、4月にリリースするシングルのMV撮影で、丸一日スタジオに缶詰である。
なお、前日はこのMV撮影に向けた振り入れがあり、明日は明日で今月、つまり3月にリリースしするシングルを引っ提げてMスタに出演、そしてさらにその次の日は、雑誌の取材と4人でゲストに呼ばれているバラエティ番組の収録も待っている。
「なんでこんなギリギリでカツカツのスケジュールなんだ…」
「琉星が20周年最後まで突っ走ろうぜ!って言ったからでしょー!」
セットチェンジの間のわずかな休憩中、スタジオ内に設けられた休憩スペースで、琉星・一仁・暁はそれぞれ椅子に腰かけ、セットチェンジが終わるのを待っていた。
航太は監督と、次に撮影するシーンの確認中だ。
「だけどよ、今日4月発売、明日3月発売の曲やるから、なんか頭がごっちゃになりそう」
「なんかデビュー直後みたいなスケジュールだよねぇ」
「暁の言う通りだけど、違うのは自分たちで作品を作るようになれたとこだよね」
「まさかデビューしたころは、4人でシングル作るなんて、想像もしなかったよ」
今回、連続リリースの最後に出すシングルでは、一仁が作詞、琉星が作曲、暁がダンスの振り付け、航太がMVのクリエイティブディレクターを務めることになっており、これまでのグループ活動やソロの仕事で培ってきたものを一つの作品として結実させようというものだ。
「暁」
と、それまでとは異なる声で呼ばれた暁は、何の気もなしに振り返る。
「なに?航太」
「わりぃ、もっかい振りの確認付き合ってほしいんだけど、いいかな?」
「いいよー」
「さんきゅ」
航太のお願いに暁は立ち上がり、スタジオ内の空いているスペースへ一緒に向かう。
その様子を、琉星と一仁は何となく目で追う。
そして、どちらともなく立ち上がり、航太と暁の元に歩み寄る。
「あれ、琉星と一仁も確認?」
「うんっ」
「ジジイと違ってちゃんと覚えてるけど、一応な」
「おい。ジジイっていうな」
「誰もリーダーのことだなんて言ってないぜ」
「話の流れ的に俺だったろ」
「でも航太、それ言っちゃうと自分で自分をジジイって認めたことになるよ?」
「まあ、初老アイドルだもんねー」
とりとめなく話をしながら、4人は振りを確認していく。
と、スタッフの方から撮影再開の声がかかる。
4人はそれぞれ返事をして、セットの方に歩いていく。
と、何となしに琉星は航太のすぐ横にぴたりとついて歩いていく。
「…何」
「…いや…、なんとなく」
「なんだよ」
「…なんでもねぇよ」
それ以上先を言わない琉星に、航太は思わず笑みを零して「なんだよそれー」と再度琉星に返し、少し琉星の先を行く。
琉星は何も言わず、少し先を行く航太の背中をじっと見つめていた。
それから再開された撮影はスムーズに進み、航太が確認していたダンスシーンも滞りなく終了した。
そして、予定した時刻より少し押したが、撮影はすべて無事に終了した。
4人はスタッフにお礼を言い、楽屋に戻る。
MVの撮影は一日がかりことが多く、必然的に、それだけでその日の仕事はおしまいとなることが多かった。
今日も今まで同様、本日の仕事はこれで終了なので、4人は帰り支度をする。
「はいはーい!」
「どうしたの?一仁」
「この後、俺と一緒にご飯行ってくれる人ー!」
「俺行けるよ」
「ありがとうリーダー、暁は…」
「ごめん、俺今日、手巻き寿司パーティーの約束してるから」
「愛娘ちゃんと?」
「そう、だからごめんね、一仁。また今度」
「いいっていいって。一応聞くけど琉星は?」
「行く」
次の瞬間、一仁・航太・暁はほぼ同時に琉星の方に顔を向けた。
顔を向けられた当の本人は、そのことにまだ気づかず、スマホで何かを確認している。
「……は!?」
「なんだよ一仁…、って何皆して」
「琉星お前、今行くって言った?」
「言ったけど…、え、何リーダー」
「めっずらしー、琉星が誘いに乗るなんて」
「うっせえ一仁、そういう日もあるんだよ」
「明日は吹雪かな」
「何気に一番酷えよ、暁」
「あ、どうやって行く?俺今日マネージャーに送ってもらったんだよね」
「俺もだ」
「俺今日自分の車で来たから、リーダーと一仁乗っけてくよ」
と、再び一仁・航太・暁の視線が琉星にくぎ付けになる。
今度は下を向いていなかったので、琉星もその視線にすぐに気付いた。
「だから何」
「お前…、大人になったなぁ…」
「え、何リーダー泣きそうなんだけど」
CDをリリースするということは、もちろん前段階として多種多様な打ち合わせとレコーディングがある。
それから、ジャケット撮影とMV撮影、雑誌の取材、リリース前後の音楽番組への出演、それに付随したダンスレッスンとやらなければいけないことは山ほどある。
それが計3回分続くのだ。
もちろん、彼らの仕事はこれだけではない。
スパノヴァのメンバーたちはそれぞれソロの仕事もあり、グループとしてのレギュラー番組の収録もある。正直、ツアー中よりはるかに忙しい。
今日も今日とて、4月にリリースするシングルのMV撮影で、丸一日スタジオに缶詰である。
なお、前日はこのMV撮影に向けた振り入れがあり、明日は明日で今月、つまり3月にリリースしするシングルを引っ提げてMスタに出演、そしてさらにその次の日は、雑誌の取材と4人でゲストに呼ばれているバラエティ番組の収録も待っている。
「なんでこんなギリギリでカツカツのスケジュールなんだ…」
「琉星が20周年最後まで突っ走ろうぜ!って言ったからでしょー!」
セットチェンジの間のわずかな休憩中、スタジオ内に設けられた休憩スペースで、琉星・一仁・暁はそれぞれ椅子に腰かけ、セットチェンジが終わるのを待っていた。
航太は監督と、次に撮影するシーンの確認中だ。
「だけどよ、今日4月発売、明日3月発売の曲やるから、なんか頭がごっちゃになりそう」
「なんかデビュー直後みたいなスケジュールだよねぇ」
「暁の言う通りだけど、違うのは自分たちで作品を作るようになれたとこだよね」
「まさかデビューしたころは、4人でシングル作るなんて、想像もしなかったよ」
今回、連続リリースの最後に出すシングルでは、一仁が作詞、琉星が作曲、暁がダンスの振り付け、航太がMVのクリエイティブディレクターを務めることになっており、これまでのグループ活動やソロの仕事で培ってきたものを一つの作品として結実させようというものだ。
「暁」
と、それまでとは異なる声で呼ばれた暁は、何の気もなしに振り返る。
「なに?航太」
「わりぃ、もっかい振りの確認付き合ってほしいんだけど、いいかな?」
「いいよー」
「さんきゅ」
航太のお願いに暁は立ち上がり、スタジオ内の空いているスペースへ一緒に向かう。
その様子を、琉星と一仁は何となく目で追う。
そして、どちらともなく立ち上がり、航太と暁の元に歩み寄る。
「あれ、琉星と一仁も確認?」
「うんっ」
「ジジイと違ってちゃんと覚えてるけど、一応な」
「おい。ジジイっていうな」
「誰もリーダーのことだなんて言ってないぜ」
「話の流れ的に俺だったろ」
「でも航太、それ言っちゃうと自分で自分をジジイって認めたことになるよ?」
「まあ、初老アイドルだもんねー」
とりとめなく話をしながら、4人は振りを確認していく。
と、スタッフの方から撮影再開の声がかかる。
4人はそれぞれ返事をして、セットの方に歩いていく。
と、何となしに琉星は航太のすぐ横にぴたりとついて歩いていく。
「…何」
「…いや…、なんとなく」
「なんだよ」
「…なんでもねぇよ」
それ以上先を言わない琉星に、航太は思わず笑みを零して「なんだよそれー」と再度琉星に返し、少し琉星の先を行く。
琉星は何も言わず、少し先を行く航太の背中をじっと見つめていた。
それから再開された撮影はスムーズに進み、航太が確認していたダンスシーンも滞りなく終了した。
そして、予定した時刻より少し押したが、撮影はすべて無事に終了した。
4人はスタッフにお礼を言い、楽屋に戻る。
MVの撮影は一日がかりことが多く、必然的に、それだけでその日の仕事はおしまいとなることが多かった。
今日も今まで同様、本日の仕事はこれで終了なので、4人は帰り支度をする。
「はいはーい!」
「どうしたの?一仁」
「この後、俺と一緒にご飯行ってくれる人ー!」
「俺行けるよ」
「ありがとうリーダー、暁は…」
「ごめん、俺今日、手巻き寿司パーティーの約束してるから」
「愛娘ちゃんと?」
「そう、だからごめんね、一仁。また今度」
「いいっていいって。一応聞くけど琉星は?」
「行く」
次の瞬間、一仁・航太・暁はほぼ同時に琉星の方に顔を向けた。
顔を向けられた当の本人は、そのことにまだ気づかず、スマホで何かを確認している。
「……は!?」
「なんだよ一仁…、って何皆して」
「琉星お前、今行くって言った?」
「言ったけど…、え、何リーダー」
「めっずらしー、琉星が誘いに乗るなんて」
「うっせえ一仁、そういう日もあるんだよ」
「明日は吹雪かな」
「何気に一番酷えよ、暁」
「あ、どうやって行く?俺今日マネージャーに送ってもらったんだよね」
「俺もだ」
「俺今日自分の車で来たから、リーダーと一仁乗っけてくよ」
と、再び一仁・航太・暁の視線が琉星にくぎ付けになる。
今度は下を向いていなかったので、琉星もその視線にすぐに気付いた。
「だから何」
「お前…、大人になったなぁ…」
「え、何リーダー泣きそうなんだけど」