初老アイドルが一般人女子との恋を成就させるまで
その後、明日も仕事があるので、3人は食べ終わるとすぐに帰路に就いた。
琉星の車はドイツの老舗車メーカーの四駆だ。
外も中も真っ黒で、夜は、車内の漆黒さが一層増している気さえする。
各々の自宅の都合上、先に航太を送り届けたため、今現在車内にいるのは琉星と一仁だけだ。




「ねえ琉星」
「なんだよ」
「リーダー、うまくいくといいね」
「……ああ」
「でも、茜先生一般人だから、色々大変そう……」
「そもそも遠距離じゃね?」
「あーそうだ」
「まあ、そこらへんは俺らが心配してもしょうがねぇし」
「だね。……ところで琉星」
「あ?」
「琉星はどうなの?」
「なにが?」
「彼女さんと」




澱みなく流れていた会話は、そこでぷつりと途切れてしまう。
ただ、一仁にはそうなることが予見で来ていたため、別段焦ったり不安に思うことなく琉星の回答を待った。




「……いつも通りだよ」
「ってことは、そろそろヤバいんじゃ……?」
「正解」
「またー?」
「しょうがねぇだろ。結婚する意味が俺には見出せねぇんだから」
「まあ、今のご時世、絶対結婚しなきゃいけないってことはないけどさ」
「……お前はどうなんだよ」
「え?」
「“アイツ”とはどうなんだよ」




今度は、一仁の方から会話を途切れさせる番だった。
でも、それは琉星には織り込み済みで、別段気にすることなく運転を続ける。




「……いつも通りだよ」
「……あっそ」
それ以上、その話題が広がることはなく、車内には静寂が訪れる。
車は、夜の街を駆け抜けていった。
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