初老アイドルが一般人女子との恋を成就させるまで
そうしてマネージャーの車で帰宅したが、その間航太は一切スマホを見なかった。
すごく気になるのだが、それによって何も手につかなくなり、気持ちも落ち着かないことが目に見えて分かる。
だから航太はあえて帰宅するまでスマホを見ずに、次の舞台の台本を読んでいたし、同乗していたメンバーも航太の性格が分かっているから、何も突っ込まなかった。
帰宅後、航太は着替えもせずにリビングでスマホを取り出した。
そして、ディスプレイを表示させると、茜からの返信が来ていることを示していた。
ここまで来たら躊躇っていてもしょうがないので、航太は躊躇うことなくメールを開く。
『では、お手隙になりましたら、メールをください。
よろしくお願いします。』
一瞬、自分から彼女に電話をかけようと思ったが、おそらく彼女は自分がかけようと想定しているであろうと思い直した。
『今、帰宅しました。電話、大丈夫です。』
それだけ簡潔に打つと、航太は一度深呼吸してから、メールを送信した。
ディスプレイの表示がいつもの受信ボックスに戻った時、心臓が大きく鼓動し始める。
落ち着こうと平静を装ってみるも、緊張が高まっていくのは止めることができない。
こういう時は、アルコールの力を借りるのが手っ取り早いのだが、これから電話が来るのだから、素面でいなければならない。
その時、航太のスマホが着信を知らせる画面に切り替わり、震え始めた。
それを認識した航太は、半ば反射的通話ボタンを押した。
「もしもし」
「……もしもし」
聞こえてきたのは、電話を待っていた相手、茜の声だ。
「久しぶり」
「お久しぶりです」
いつもなら、そのまま何かしら会話が展開していくのだが、今日はそこで会話はぷつりと途切れてしまった。
航太は、茜が話を切り出してくるのを待った。
スマホ越しに、彼女の緊張が伝わってきて、静まりかけた緊張が再び航太にまとわりつく。
数十秒か、はたまた数分か、スマホ越しに続く沈黙。
「……あの」
「はい」
「先日、一緒に出かけた時の申し出についてですが……」
本題が切り出された瞬間、また航太の心臓は大きく鼓動する。
いくらどんな結論でも受け入れる心づもりをしていたとしても、やはり不安と期待がないまぜになり、それが航太の胸を侵食していく。
「あの後、たくさん考えました。航太さんのお仕事のこととか、たくさん、色々考えて……。でも、一回そういうの全部取っ払って、自分はどう思ってるかってことを、改めて考えたんです」
「……うん」
と、続くはずの茜の言葉が切れて、深く息を吸う音が航太の耳に届いた。
一番、心臓が大きく鼓動したような気が、航太はした。
「……航太さんと、一緒にいたいなって。そう、思いました」
茜の言葉が、スマホを通って航太の元に届く。
彼女の言葉を認識した次の瞬間、航太は体温が上昇するような感覚を覚えた。
「だから、これからよろしくお願いします」
それは、未来のための挨拶だった。
彼女からそれが出てきたということは、自分の申し出は受け入れてもらえたということ。
そう航太が頭で理解した途端、胸がいっぱいになる感覚がした。
先ほどまで不安と期待で浸食されていたはずなのに、それは跡形もなく消え去り、今航太の胸を占めているのは、嬉しいという感情だった。
「……茜さん」
「あ、はいっ」
「改めて、言わせてもらってもいいですか?」
「……どうぞ」
「……俺と、付き合ってもらえますか?」
「……はい」
互いに、スマホ越しに感じていた緊張感がやっと無くなったと感じられた。
張り詰めていた心が、ようやく平常を取り戻しつつある。
「……よかったー……」
「え?」
「ごめん、めちゃくちゃドキドキしてました」
「……その言葉、そっくりそのままお返しします」
「だよね。あ、そうだ。これからのことなんだけど」
「はい」
「その、俺たちのことは」
「あ、もちろん誰にも言いません」
「うん、それでお願いします。連絡は、今まで通りで大丈夫だから」
「はい」
「あとは…、多分、俺がこういう仕事だから、色々我慢してもらわなきゃいけないこととか、たくさんあると思う。そこは、分かっていてほしい」
「大丈夫です」
「ありがとう。マスコミとか、流石に茜さんの所には行かないと思うけど、何かあったらすぐ言って」
「分かりました」
「何かある?茜さんの方から」
「えー……、今は、特にないです」
「オッケ。でも、何かあったら遠慮なく言ってね」
「はい。ありがとうございます。じゃあ、明日もお忙しいと思うので、これで」
「茜さんも仕事、頑張ってね」
「はい」
「それじゃ」
「じゃあ、また」
航太はそのまま黙ってスマホを耳に当てたまま、通話を終える音がするのを待った。
だが、その音はいつまで経っても聞こえてこない。
「……航太さん」
「……はい」
「切ってもいいですか?」
「はい」
そうしてようやく、通話を終える電子音が航太の耳に届いたのであった。
彼が今いる所はリビングだから、鏡なんて置いてあるわけがない。
だけど、自分が今最高ににやけていることは分かる。
明日も朝から仕事だが、とっておきの日本酒を飲もうと、航太はキッチンに向かった。
すごく気になるのだが、それによって何も手につかなくなり、気持ちも落ち着かないことが目に見えて分かる。
だから航太はあえて帰宅するまでスマホを見ずに、次の舞台の台本を読んでいたし、同乗していたメンバーも航太の性格が分かっているから、何も突っ込まなかった。
帰宅後、航太は着替えもせずにリビングでスマホを取り出した。
そして、ディスプレイを表示させると、茜からの返信が来ていることを示していた。
ここまで来たら躊躇っていてもしょうがないので、航太は躊躇うことなくメールを開く。
『では、お手隙になりましたら、メールをください。
よろしくお願いします。』
一瞬、自分から彼女に電話をかけようと思ったが、おそらく彼女は自分がかけようと想定しているであろうと思い直した。
『今、帰宅しました。電話、大丈夫です。』
それだけ簡潔に打つと、航太は一度深呼吸してから、メールを送信した。
ディスプレイの表示がいつもの受信ボックスに戻った時、心臓が大きく鼓動し始める。
落ち着こうと平静を装ってみるも、緊張が高まっていくのは止めることができない。
こういう時は、アルコールの力を借りるのが手っ取り早いのだが、これから電話が来るのだから、素面でいなければならない。
その時、航太のスマホが着信を知らせる画面に切り替わり、震え始めた。
それを認識した航太は、半ば反射的通話ボタンを押した。
「もしもし」
「……もしもし」
聞こえてきたのは、電話を待っていた相手、茜の声だ。
「久しぶり」
「お久しぶりです」
いつもなら、そのまま何かしら会話が展開していくのだが、今日はそこで会話はぷつりと途切れてしまった。
航太は、茜が話を切り出してくるのを待った。
スマホ越しに、彼女の緊張が伝わってきて、静まりかけた緊張が再び航太にまとわりつく。
数十秒か、はたまた数分か、スマホ越しに続く沈黙。
「……あの」
「はい」
「先日、一緒に出かけた時の申し出についてですが……」
本題が切り出された瞬間、また航太の心臓は大きく鼓動する。
いくらどんな結論でも受け入れる心づもりをしていたとしても、やはり不安と期待がないまぜになり、それが航太の胸を侵食していく。
「あの後、たくさん考えました。航太さんのお仕事のこととか、たくさん、色々考えて……。でも、一回そういうの全部取っ払って、自分はどう思ってるかってことを、改めて考えたんです」
「……うん」
と、続くはずの茜の言葉が切れて、深く息を吸う音が航太の耳に届いた。
一番、心臓が大きく鼓動したような気が、航太はした。
「……航太さんと、一緒にいたいなって。そう、思いました」
茜の言葉が、スマホを通って航太の元に届く。
彼女の言葉を認識した次の瞬間、航太は体温が上昇するような感覚を覚えた。
「だから、これからよろしくお願いします」
それは、未来のための挨拶だった。
彼女からそれが出てきたということは、自分の申し出は受け入れてもらえたということ。
そう航太が頭で理解した途端、胸がいっぱいになる感覚がした。
先ほどまで不安と期待で浸食されていたはずなのに、それは跡形もなく消え去り、今航太の胸を占めているのは、嬉しいという感情だった。
「……茜さん」
「あ、はいっ」
「改めて、言わせてもらってもいいですか?」
「……どうぞ」
「……俺と、付き合ってもらえますか?」
「……はい」
互いに、スマホ越しに感じていた緊張感がやっと無くなったと感じられた。
張り詰めていた心が、ようやく平常を取り戻しつつある。
「……よかったー……」
「え?」
「ごめん、めちゃくちゃドキドキしてました」
「……その言葉、そっくりそのままお返しします」
「だよね。あ、そうだ。これからのことなんだけど」
「はい」
「その、俺たちのことは」
「あ、もちろん誰にも言いません」
「うん、それでお願いします。連絡は、今まで通りで大丈夫だから」
「はい」
「あとは…、多分、俺がこういう仕事だから、色々我慢してもらわなきゃいけないこととか、たくさんあると思う。そこは、分かっていてほしい」
「大丈夫です」
「ありがとう。マスコミとか、流石に茜さんの所には行かないと思うけど、何かあったらすぐ言って」
「分かりました」
「何かある?茜さんの方から」
「えー……、今は、特にないです」
「オッケ。でも、何かあったら遠慮なく言ってね」
「はい。ありがとうございます。じゃあ、明日もお忙しいと思うので、これで」
「茜さんも仕事、頑張ってね」
「はい」
「それじゃ」
「じゃあ、また」
航太はそのまま黙ってスマホを耳に当てたまま、通話を終える音がするのを待った。
だが、その音はいつまで経っても聞こえてこない。
「……航太さん」
「……はい」
「切ってもいいですか?」
「はい」
そうしてようやく、通話を終える電子音が航太の耳に届いたのであった。
彼が今いる所はリビングだから、鏡なんて置いてあるわけがない。
だけど、自分が今最高ににやけていることは分かる。
明日も朝から仕事だが、とっておきの日本酒を飲もうと、航太はキッチンに向かった。