初老アイドルが一般人女子との恋を成就させるまで
茜の想像通り、航太はその日は21周年突入記念シングルのプロモーションのために、朝は一仁と雑誌のインタビュー、昼間は暁とラジオ出演、夜は4人で音楽番組『Utaoh!!』の収録に臨んでいた。



「はい、今日のゲストはsupernovaの皆さんでーす!」
「よろしくお願いしまーす」



『Utaoh!!』はバラエティ色の強い音楽番組で、司会はベテランお笑い芸人が担当し、歌だけでなくトークやミニゲームなど盛り沢山で、ファンからも人気な番組の一つだ。
ミニゲームでは罰ゲームも用意されている。
そのため、歌唱やパフォーマンスに影響が出ないように、いつもこの番組では歌を先に収録して、それからトーク部分を収録する。
スパノヴァも先に歌部分の収録を行い、それからトーク部分を今収録しているのだ。



「航太君さ、今年いくつになるの?」
「あ、今年で」
「46になります!」
「待って、俺航太君に聞いてんのよ、一仁君」
「お前すぐ人のトーク盗るな」
「ちょっとー、人聞きが悪いよ琉星!」
「事実だろうが」
「そんなことないし!」
「喧嘩すんな、喧嘩!」
「航太君、相変わらず“オトン”みたいやなぁ」
「ですよねぇ。俺が言っても琉星も一仁も聞かなくて」
「“兄貴”の暁君より“オトン”の方が、下の子らも言うこと聞くよなぁ」
「俺、リーダーから産まれてないよ!」
「当ったり前だろ一仁!」
「そもそも、リーダーがほんとに親父でも、リーダーからは産まれてこねぇだろ」



この番組には、デビューしてからもう何十回と出演させてもらっている。
そのため、司会者の芸人とのやり取りも慣れたものである。



「しっかし、なかなか“オトン”卒業できひんなぁ」
「でも、デビュー直後に比べたら、こいつらも成長しましたよ。この前、暁は用事があったんで、俺と琉星と一仁と3人で飯行ったんですけど」
「え?琉星君普段行かんやん」
「なんですけど、何か疲れてる俺が心配で来てくれたんです」
「言うなよ!」
「親孝行やん」
「別に、そういうんじゃ……」
「琉星、耳真っ赤!」
「分かりやすいんだよねぇ」
「それはそれとして、自分、大人になったなぁ」
「いや、俺もう37ですからね?」
「俺も俺もー!」
「君ら世間一般の37歳と違いすぎるのよ」
「でもそれ言ったら、リーダーも暁も世間一般の40代とかけ離れてると思いまーす」
「たしかに、世の中の43歳と46歳は、あんながしがし踊らんわな」
「リーダーなんて、“初老アイドル”って呼ばれてますからね」
「だから初老は俺だけじゃねぇって!」
「でも航太君、あと4年したら中老突入やで」
「中老?」
「50歳のことだよ、琉星」
「お、流石一仁君。博識やねぇ」
「えへへ」
「いやー、50か。想像つかないな……」
「今のまま独り身やと、寂しい老後突入やで?」
「大丈夫です!俺たちがリーダーの老後の面倒見るんで!」
「ははっ!親孝行やねぇ、一仁君!」
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