社長、それは忘れて下さい!?
「私、社長のことが、好き……なんです」
「……」
涼花がぼそぼそと呟くと、旭の時間が止まったのがわかった。お好み焼きを食べるために手にしていた二本の箸が旭の指先から零れ落ち、鉄板の上にカラカラと音を立てて転がる。
「えええぇ……!? 本当にっ!?」
しばし沈黙していた旭が、突然火が付いたように騒ぎ出した。他の客に迷惑になると焦ったが、慌てて周りを見ても涼花と旭の様子は誰も気に留めていなかった。
「えっと……気付いてなかった、ですか?」
「ぜ、全然気付かなかった……! 嘘、まじでー? そ、それは驚くって……」
旭は驚きと興奮が入り交じったように、ビールジョッキと涼花の顔の間で何度も視線を往復させた。
いつも飄々としている旭が取り乱す様子を見ると、自分がすごく場違いな事を言ってしまったと気付かされる。
「いやー、涼花はすごいポーカーフェイスだなー。社長を嫌ってるとは思ってなかったけど、どっちかって言うとアプローチされて困ってるんだと思ってた」
しみじみと己の見解を漏らした旭に『この人は本当にすごい洞察力だな』と感心した。一番肝心の涼花の気持ちは知らなかったらしいが、後半の意見はほとんど当たっている。涼花は旭の顔を見て苦笑した。
「私、もう社長の傍にはいられないですよね……。だから折を見て退職……」
「待って待って待って! なんでそうなる!? それだけはほんと勘弁して! 俺が困るから!」