Don't let me go, Prince!
やはり私の考えは間違ってはいなかった。今、彼の要求を素直に飲むことを私のプライドが邪魔をする。脱がされるのならまだしも、全て自分で脱ぐなんて。
ベッドの上で座り込んだまま、自分の脱いだトレーナを引き寄せる。この一枚だって貴方の前で脱ぐのにどれだけの勇気が要ったのか知りもしないくせに。
彼の瞳と指先はそんな事はお構いなしに「シャツも脱げ」と私を急かす。
震える手は誤魔化せない。だって彼がじっと私の動きを観察してるもの。彼の瞳から目を逸らせなくて、言いなりになってしまいそうになったその時。
「渚、失礼します。」
それだけを言うと、弥生さんから片腕で抱き上げられベッドから離される。いきなりの出来事に私は声も出す事が出来ない。
男性の平均より体の大きな弥生さんに軽々と抱き上げられたことに、私の心は少女の様にときめいてしまった。私は昔から自分より肉体的にも精神的にも強い男性に惹かれる事が多かった。
しかし私はすぐに気付く。私は彼に抱き寄せられたのではないのだと。
「ああ、ありました。どうやら渚を降ろした時に一緒に落としてしまっていたようです。」
彼が私のいた場所から拾い上げたのはスマホ。目的の物を見つけた彼はすぐに私を元の場所へと戻した。
「今日は電話をしないように、頼んでいたのに……」
そのスマホからは小さな着信音。よくそんな小さな音が聞こえたわね?弥生さんは電話には出ないで、メールか何かを打っている様子。私の前で出ることの出来ない相手なの?
「渚、私は今から少し出てきます。夕方には戻りますから……ここで待っていなさい。欲しいものがあればフロントに言いなさい。何でも用意するように伝えてありますから。」
そう言ってドアの鍵を開ける弥生さんの背中に、私は問いかける。この部屋の妙な違和感……入った時から私はずっと感じていた。
「貴方は私を閉じ込めるためだけにこの部屋を用意したの?」