Don't let me go, Prince!



「あら、やっぱり黒の方が良かったですか?」

 私と従業員の会話を止めに来た弥生さんにわざと悪戯っぽく聞いて見せる。少しだけあなたの表情が分かるようになってきたのよ。いつまでもそんな鉄面皮じゃいられなくしてあげる。

「色やデザインの問題ではありません。他人に余計なことまで話さなくてもいいと言っているのです。」

 そう言って私を従業員から引き離し、部屋の中へと押し戻そうとする。まだ女性従業員と話している最中なのに。

「どうして?こう見えてもスタイルには自信があるの。どうせ見てもらうのなら飾りつけも旦那様(アナタ)好みにしておきたいでしょう?他の女性の意見も聞きたいじゃない。」

「渚はもう部屋に入っていなさい!すみませんが買い物は私が行きますので、貴女はもうお仕事に戻ってください。」

 私の事を無理矢理部屋へと押し込んで、弥生さんは勝手に女性を仕事へ戻してしまった。せっかく楽しい話が出来そうだったのに。

 買い物は私が行くって……真面目で堅物の弥生さんが女性の下着売り場になんて行く事が出来るの?それは勿論弥生さんが私のために選んできてくれたら嬉しいのだけれど。

「本当に弥生さんが……買ってくるの?」

「渚が余計な事を話そうとするからこうなったのでしょう?サイズはいくつですか?買ってくる間に少しは反省なさい。」

 もう少し困った顔をすればいいのに、思ってたのよりも普通の顔で財布を取り出し出かける準備を始める弥生さん。そんなんじゃつまんないのよ。

「サイズ、触って確かめてみる?」

「……っ!渚、いい加減にしなさい!」

 さすがに驚いた顔をした弥生さんから怒鳴られてしまったわ。





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