Don't let me go, Prince!
私には結婚して半年も知らされていなかった事実を、弥生さんはいつもと何も変わらない様子で話しを始める。それなりの事を話しているはずなのに、弥生さんからは何の感情も読み取れない。
「弥生さんのお母さんが亡くなられて再婚されたの?じゃあ、弟さんはまだ小さいの?」
弥生さんのお母さんが亡くなったのは何年前だと言っていたかしら?義理のお母さんと弟さんは何故私たちの式には出てくれなかったのだろう?私はこの時はまだ弥生さんの家庭がとても複雑だとは思ってなかった。
「弟の神無と私の誕生年は同じです。半年ほど私が先に生まれたので学年は1つ上になりますが。」
「何ですって!?」
この話の時点で、彼の弟と義母が結婚式に出なかった理由は簡単に想像がついた。お父さんには弥生さんの母親が身ごもる前から愛人がいたという事なのかしら?
「私たちの関係はとても複雑です。そうですね……この用紙にでも書いていきましょうか?」
弥生さんは鞄から仕事に使っていると思われる、A4サイズの用紙をテーブルに出してペンを走らせた。
「父と義母は元々夫婦なのです。2人が結婚して数年、お手伝いとして勤め始めた母に父が酒に酔った勢いで手を出してしまい母は私を身籠った。その事実が分かった時……まだ子供にいなかった義母を仲の悪かった祖母が追い出し、身籠った私の母を嫁として迎えたのです。」
ちょっと待って、話が変よ?弥生さんの話からすれば愛人だったのは義母ではなく弥生さんのお母さん?でも、それならば神無さんの存在はどういう事?
理解しようとしても頭が理解したがらない気すらする。きっとこの事実に傷付いたのだろうに、弥生さんはそんな雰囲気は全く見せない。
「しかし父が愛していたのは義母でした。離婚後も父は何度も義母の元に通い、私が生まれる前に義母は神無を身篭ったと聞きました。」