Don't let me go, Prince!


「ごめんなさい。理解はできるけれど、ちょっと信じられない気持ちよ。メチャクチャな話だわ……少しだけお茶を飲んで良いかしら?」

「待ってなさい、私が持ってきます。」

 そう言って弥生さんは小型の湯沸かし器でお湯を沸かし紅茶を入れて来てくれた。……私、紅茶が好きな事言ったかしら?不思議に思って弥生さんを見つめる。

「ああ、紅茶の事ですか?キッチンに茶葉が増えていたので家政婦に聞きました。渚は紅茶を淹れるのがとても上手だそうですね?今度は私の為に淹れてください。」

「も、もちろんいいわよ?茶葉は何が良いかしら。」

 そんな細かい事を家政婦から聞いて知っていてくれたことが嬉しい。何の興味も持ってもらえてないんじゃなかった。弥生さんは弥生さんの方法で私を知ろうとしてくれたんだわ。
 自分の為に淹れて欲しいだなんて……こんな事でも貴方に必要とされて嬉しいのよ?恥ずかしくてとても言えないけれど。

「そうですね、色々ありますからね。今度二人で買いに行きましょうか?」

「ええ……」

 私は静かに俯いた。だってもう泣きそうな気持になっていたから。どうしてあの屋敷ではこんな風に話してくれなかったのだろう?これにも何か理由があるのだろうか?

 静かに紅茶を飲み終わると、弥生さんはカップを片付けに行って10分ほどで戻って来た。

「さっきの続き……話しても大丈夫ですか?」

「あ、はい。」

 まだ続きがあるのかしら?話の内容が弥生さんの心を傷付けないものだと良いのだけれど。

「私と神無が生まれた後、父は義母と神無と暮らしたがりました。しかし祖母が許さなかった。結局私が5歳の時祖母は亡くなり私と母は父にあの屋敷から追い出されたんです。」


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