Don't let me go, Prince!




 弥生さんは私が彼に回した手をそっと外して、私から距離を取る。少しだけ彼が私の事を、抱き締め返してくれなかったことにショックを受けてしまった。

  弥生さんは真面目な顔で私を見つめてから、落ち込んでしまった私の頭をそっと撫でてくれた。

「渚。私は父のこともあり、あまりお酒に酔っている人が得意ではありません。今日の話は少し渚の酔いがさめるまで待ちましょう。」

 弥生さんはそっと私をソファーに座らせてから、スーツのジャケットを脱いだ。そのままネクタイを緩めてボタンを外す。それだけの事なのに彼からは大人の男の魅力を感じる。

「紅茶を淹れてきます。」

 弥生さんは酔った私の為に紅茶を用意してくれた。
 弥生さんはお義父さんが酔って使用人に手を出してできた子だったのだわ。酔っ払いを嫌うのも当然の事。私は考えもしないでなんてことをしてしまったのかしら……

「弥生さん……ごめんなさい。」

「いいえ。渚がお酒を飲むのは自由なはずなのに、私こそ責めるようなことを言ってしまいすみませんでした。」

 弥生さんは自分が悪かったと思っているようで、私に謝ってくる。嫌な事は嫌だって素直に言っていいのよ?私たちは夫婦でしょ?

「弥生さんが嫌なら、もう飲んだりしないわ。紅茶……とても美味しい、ありがとう。」

 彼に入れて貰った紅茶を飲むと、気持ちが少しずつ落ち着いてくる。酔っぱらって変な甘え方をしたのを後悔してる。

「今お風呂の準備をしてますから、酔いがさめたら入りなさい。そんなにたくさんは飲んでいないのでしょう?」

「……カクテルを2本。」

 素直に飲んだ量を弥生さんに伝える。弥生さんは少しだけ渋い表情をしてる。

「お酒を飲むのは私の前でだけにしなさい。渚に酔って抱きつく癖があるなんて聞いてませんでした。」


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