Don't let me go, Prince!



 そんな癖は無いわよ、ちゃんと弥生さんだって分かって抱きついたんだし。ちょっとだけ甘えてもいいかなって、そんな事を思っただけなの。

「でも弥生さんは酔っ払いが苦手なんでしょう?私は貴方の前では飲まない方が良いんじゃないの?」

「確かに酔っぱらいは嫌いですが、渚が酔って他の男性に抱きつくのはもっと嫌です。」

 どうやら弥生さんは本当に私が酔うと男性に抱きつくと思っているみたい。私が飲んだアルコールの缶を持って行こうとする手を掴んで止める。

「弥生さんだから、抱きついたのよ?他の男性には酔っていても触れたりしないと約束出来るわ。」

 嘘じゃない。弥生さんが他の男に触れて欲しくないのなら、それでいいもの。一番触れて欲しいのは、その冷たい指先なのだから。

「私だから?……それなら悪くありません。渚は酔うと少し甘えん坊になるのですね。」

 そうよ、今日一人で置いていかれて私は寂しかったんだから。私は掴んだ彼の手を自分の頬に当ててスリスリと触れて見せる。
 少し残ったアルコールが私をいつもより素直にさせる。

「もっと、甘えさせて……?」

 上目づかいで彼にお願いすると、弥生さんは缶を一度テーブルに置いた後そっと私の唇に触れた。指でなぞった唇に柔らかな彼の唇がそっと重なる。
 
 優しいキスを何度か繰り返した後に、彼が私の口内に侵入してキスを深いものに変える。私が彼の動きに必死で応えると、ご褒美のように彼は気持ちいい所を刺激してくれる。

 ほら、貴方とするキスだけで……私はこんなにも幸せで気持ち良い気分になってしまうの。

「今はこれだけで我慢しなさい。お風呂も夕食もまだですし、渚は酔いをさます必要がありますから。」

「……はい。」

 蕩けるような甘いキスの後の彼の言葉は甘くない。このまま触れて欲しいくらいなのに、彼は決してそうしてはくれない。ちょっと残念に思いながらも私は素直に彼の指示に従う事にした。


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