主人と好きな人。
八重歯の彼。
「引っ越しするの?お姉さん。」
片方外していたイヤホンの方向から声が聞こえ振り返る。
目線の先には今日の朝、会釈した綺麗な顔の男の子が立っていた。
「・・・・・・・・・あなた・・・。」
「今日朝駅のホームで会ったよね!覚えてる?」
「覚えてるけど・・・・。」
隣の家の子だったのか・・・。
たまにすれ違うぐらいだったし、基本的な挨拶だったから気づかなかったんだ。
「それで?引っ越しするの?」
「え・・・・。」
手に取ったプレートに目を移し汚れを拭き取る振りをしてプレートをはめ込んだ。
「汚れ取ってただけだよ?」
「ふーん?お兄さんのプレート方が汚れて見えるけど・・・。」
「か、角度じゃない?」
じっと見つめてくる男の子から慌てて目をそらし鍵を回す。
何であたしこんな見たこともないような男の子に惑わされてるんだろ。
そう思いもう1度その男の子を見る。
「ん?入らないの?」
「は、入りますよ・・・。」
玄関のドアを開け玄関に入ろうとすると
「またね」と声をかけられた。
また・・・会うだろうな。隣の家の子なら。
聞こえないふりをしてドアを閉め鍵をかけた。
男の子の事は頭の片隅において、お弁当を食べながら持ち帰った仕事を済ませた。
乾いた海苔が喉の奥を刺激する。
ペットボトルのお茶を飲みそれを流し込んだ。
それにしても綺麗な男の子だったなっと仕事を済ませながら思い出す。
あんな子が隣に住んでたらあたしも覚えてそうなもんだけど。
仕事を片付けお弁当のゴミを軽く洗いゴミ箱に捨てた。
「・・・・・・・・・・。」
健次が居ない夜は今まで何回もあったけどこんなに考えないのははじめてかも。
シャワーを浴び、パジャマを着てベッドへ足を通した。
いつもなら健次があっためてくれてるベットはひんやりとしていた。
目を閉じ、あの男の子の事を考えているといつの間にか眠りに落ちていた。
玄関のドアの開き、うっすら目を開け時計を確認すると
深夜2時を回っていた。