辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する

 ブラウナー侯爵は横に伸びた髭を何回か揺らしながら、満足げに頷いた。サリーシャはその様子を見つめながら、どうかセシリオが危険に晒されないようにと縋るような気持ちで祈った。
 
    ◇ ◇ ◇

 表面上は平穏な日々が続いていた。

 サリーシャが見る限り、表立ってアハマスの軍隊が動いているような素振りはなかった。
 セシリオはブラウナー侯爵が来てからのここ数日、いつもに輪をかけたように忙しそうにしていた。サリーシャはセシリオとほとんど会話らしい会話も出来ていなかったが、それはマリアンネも同じようで、マリアンネは最近不機嫌そうにしている。
 ただ、朝晩の食事の際に顔を会わせると、セシリオはマリアンネに対しては表情を変えないのに対し、サリーシャと目が合うと優しくヘーゼル色の瞳を細めて微笑んでくれる。ただそれだけで、サリーシャは十分に彼の愛情を感じることが出来た。

 灰色の刺繍糸の最後の一刺しを縫って、サリーシャはハンカチを置いた。いつもするように少し離れてそれを眺め、おかしなところがないかを確認する。
 縁に深緑色のラインの入ったハンカチには、剣と盾、そしてセシリオの頭文字である『S』が入れられている。盾と剣については最近は使っていない、三階のプライベートダイニングルームに飾られていたものを真似してデザインした。灰色と白と黒色の刺繍糸を組み合わせて立体的に見せている。
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