辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する



 セシリオはハンカチを持って、すぐに階下のサリーシャの部屋に向かった。ドアをノックしたが、返答はない。

「サリーシャ、いないのか?」

 何回かノックしたのちにドアノブに手を掛けて開くと、そこはいつもと変わらぬ様子を見せていた。
 シンプルな家具に落ち着いた雰囲気の客間。部屋の中を見渡したが、人の気配はなかった。窓際には花が生けられた花瓶が飾られ、サリーシャがいつもつけている香油の甘い香りがスンと鼻孔を掠める。
 ベットには夕食のときにサリーシャが着ていたドレスが脱ぎ捨てられており、クローゼットは開け放たれていた。そして、廊下側の壁際に置かれたサイドボードの上には刺繍道具の箱が開けっ放しのまま置かれていた。

「あら、旦那様。どうかされましたか?」

 入り口から少し入ったところで立ち尽くしていると、驚いたような声がしてセシリオは振り返った。そこには、湯浴みのための道具を持ったクラーラとノーラが立っていた。
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