辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する

 心当たりと言われても、さっぱり思い当たらなかった。
 むしろ、最初はよそよそしくて物憂げな様子だったサリーシャは、最近ではよく笑うようになったと思っていた。そして、目が合うとほんのりと頬を染め、嬉しそうにはにかむ。思い上がりでなければ、自分のことを慕ってくれていると思っていた。事実、サリーシャとデオに乗った日に、彼女は自分に『お慕いしています』と言ったのだ。

 サリーシャが自分からここを出ていく理由など何もない。それに、アハマスは辺境の地だ。つい最近、初めてここを訪れたサリーシャに、夜飛び出して行く宛などどこにもないはずだった。

 しばらくすると、モーリスの部下が息を切らせて戻ってきた。内門の門番をしていた兵士の一人も一緒だ。
 アハマスの領主館は二重の(ほり)に囲まれており、外門と内門の二つの門がある。門番は自分が何か不手際をしたのかと、おどおどした様子でしきりにセシリオとモーリス、そしてここに連れてきた部下の顔を見比べていた。その門番によると、サリーシャはつい先程馬車で出かけたと言う。

「なぜ外に出した!」
「ど、どうしても外に行く用事があると仰っておりましたので……」

 激しく(いか)るセシリオに恐れをなした様子の門番は、震え上がらんばかりの様子で答える。この役立たずが、と罵りたい衝動に駈られたが、セシリオは必死に理性でそれを抑えた。
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