この恋は、『悪』くない。
「樽崎くん…あの…寝た?…よね…」
薄暗い部屋に
私の声が震えて消えた
息をする度に
目が熱くなる
さっきまでの熱が
全部目に集まるみたいに
涙を堪えたら
身体が震えた
「…ん……沙和…寝てないよ…」
隣から
声がして
慌てて息を止めた
起きてたのに
何も声を掛けてくれないって
やっぱり私
よくなかったんだ
そっと樽崎くんの方に身体を向けたら
樽崎くんが腕で顔を隠した
私の顔
見たくない?
抱きしめて
くれないんだ
切なくなった
やっぱり
私と樽崎くんは
違う世界だったのかな…
「あの…ごめんなさい
…
樽崎くんは、慣れてるかもしれないけど
私、そんな経験もなくて…
緊張してて…
それは、言い訳かもしれないけど…
…
よくなかった、かな…?
ダメだったよね…?
…
あの…私はでも、樽崎くんが好きで…
…
好きで…」
言ってる自分が
虚しくなった
言い訳とか
恥ずかしすぎる
お泊りなんて
私が誘ったのに
誘わなきゃよかった
「沙和…
オレ、泣きそう…
…
や…ごめん…もぉ泣いてるかも…」
え…
樽崎くんの腕の隙間から
そう聞こえた
そんな…
ショックだった
火照ってた身体が
冷めていくのがわかった
やっぱり
樽崎くんに後悔された
私を
彼女にしたこと
ずっと好きだったって
言ってくれたのに
幻滅した?
樽崎くんとの間にできた
少しの隙間から
熱が逃げてく
さっきまで
ふたりだったのに…
優しく抱いてくれたのに…
樽崎くんの吐息がかかるくらい近かったのに…
触れた指先から熱くなったのに…
ドキドキしてたのは
私だけだった?
すぐ隣にいるのに
ひとりみたい
私
それでも私は樽崎くんが好きだよ
樽崎くんの腕を掴んで
縋り付きたかった
腕で隠した樽崎くんの目尻から
涙が流れたのが見えて
樽崎くんを掴むことを
諦めた
泣きたいぐらい
ダメだったんだ
私
こんな私が
樽崎くんのこと
好きなんて思って
ごめんなさい
また
こわくなった