あの日溺れた海は、
とぼとぼと教室に戻ってくると早速HR(ホームルーム)が始まった。


わたしたち2年5組の担任の先生は、文芸部の顧問でもあるおじいちゃ…近藤先生になったらしい。教壇でいつものようにのんびりとした口調と柔らかい笑顔で軽い自己紹介をしていた。


白髪で年齢も年齢だから、生徒からはおじいちゃんと呼ばれています、と自分で紹介し始めたときはさすがのわたしもくすりと笑った。


おじいちゃんは自己紹介を終えると、そのまま副担任に自己紹介をするように促した。

副担任が教壇に上がると、クラスが少しざわついた。


わたしはその人が淡々と自己紹介する様子をぼーっと見ていた。

黒髪で、長身で、眼鏡をかけた物静かな先生だった。
見たことない先生だなあ、と思っていると今年赴任してきたばかりだと言っていて納得した。


「藤堂先生には主に進路のことだったり、行事に関してクラスのサポートをお願いしようかなあと思っています。」

「はい。よろしくお願いします。」

藤堂先生が静かにそう言うと、クラスから拍手が沸き起こった。
わたしもそれに倣って手をたたいたが心は別のことを考えていた。
近藤先生に正直に言うべきか、それとももう一度部室を探してみるか。


そんなことをぐるぐると考えているとあっという間に2年生初日が終わってしまった。



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