エリート弁護士との艶めく一夜に愛の結晶を宿しました
 一緒にお風呂に入ったので自分と同じ香りが鼻を掠める。

 そのままふたりでベッドに倒れこみ、彼と見つめ合った状態で、ベッドのスプリングが軋むのを耳と体で感じる。

 お互い横になって向き合い、目が合うと稀一くんに抱き寄せられた。鼓動がわずかに速まる。

「今日はやけに積極的だな」

「だって……」

 大事なものを扱うように私の頭を撫でて、彼の長い指が髪を滑っていく。私はおそるおそる彼に尋ねた。

「稀一くんは……その、しなくて平気なの?」

 なにを、というのまでは具体的には言えなかった。けれどこの状況なら十分に伝わったはずだ。

 妊娠が判明してから、正確には彼が出張に行く前から私たちは夜の営みをしていない。

 病院で戌の日参りの説明と共に妊娠中の過ごし方についての資料をもらった。

 妊娠中の性行為については、特別な指示がない限りとくに禁止はされていないが、やはり気をつけないといけない事項も多々ある。

 どうするのが正解なのかはわからない。それこそ夫婦それぞれだ。

「日奈乃はしたい?」

 答えを待っていたのに、逆に聞き返され戸惑う。どう返そうか迷ったが、変に取り繕ってもしょうがない。

「したくないと言ったら嘘になる。でも……」

 体調が落ち着いて、大好きな人と触れ合いたい気持ちが自然と湧いてくる一方で不安がないわけじゃない。

 稀一くんはどうなんだろう。

 言いよどんでいる私を見て、続きを察したらしい。頭に軽くキスされて抱きしめられる。
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