エリート弁護士との艶めく一夜に愛の結晶を宿しました
「留学中に日奈乃と会って、自分の気持ちを自覚したのはいいけれど、距離があっただろ。帰国したときには、日奈乃の気持ちはもう俺にじゃないんじゃないか、誰か別の男のものになっているんじゃないかって気が気じゃなかった」

「そ、そんな」

 杞憂もいいところだ。逆に私はいい加減、稀一くんを諦めなければと躍起になっていたのに。

「行っても数年だし、そう慌てる必要はない。次に行くときは必ず日奈乃も一緒だと思っていたんだ」

 そう言って稀一くんは静かに私の手を取る。

「子どもが生まれて、落ち着いてからを考えている。そのときはついてきてくれるか?」

 まるでプロポーズだ。私は彼の手を強く握り返す。

「うん。稀一くんと一緒なら、どこにでも行くよ。もちろんこの子も」

 きっといざその現実に直面したら大変なこともたくさんあるのだろうけれど気持ちに迷いはない。

 稀一くんは嬉しそうに微笑んで、私の頬に触れる。そしてどちらからともなく口づけた。この後、彼はすぐ隣の自分のベッドに行くのがいつもの流れだ。

 私は自然と上目遣いに彼を見つめ、意を決する。

「あのね、稀一くん。今日はその、ここで一緒に……寝てほしいです」

 意外だったのか、稀一くんは虚を衝かれた顔になった。けれどすぐに口角を上げ、目を細める。

「俺に断る選択肢はないな」

「迷惑じゃない?」

「まさか。日奈乃が俺を求めてくれて嬉しいよ」

 そういう言い方をされるとなんて返していいのか困ってしまう。言葉で返す代わりに、稀一くんに自分から抱きついた。
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