エリート弁護士との艶めく一夜に愛の結晶を宿しました
 最後に来たのはいつだったか、懐かしいようであまり変わっていない。可愛らしい雰囲気が好きなのは母親譲りなのだろう。

 他愛ないやりとりを繰り返していたら不意に彼女から尋ねられる。
『稀一くんはどうして弁護士になろうと思ったの?』

 正直、驚いた。そういった質問をされるのは久しぶりだったからだ。

 父親が弁護士だと知っている人間は『お父さんの跡を継ぐんだね』『お父さんを超えるような弁護士になるよう頑張ってね』と激励混じりに父親を引き合いに出すのが定番だった。

 それにいちいち腹を立てるほど子どもではなくなった俺は、そつなく返す。そして日奈乃にもいつものお決まりの回答を返した。

『父親の影響だよ』

 これでたいていの人間は納得する。ところが、ここで日奈乃はすぐに食い下がってきた。

『でも、稀一くん自身が弁護士を目座す気持ちがあるからでしょ?』

 これには虚を衝かれた。おかげでとっさに上手く返す言葉が見つからないが、すぐに思い直す。

 べつに変に取り繕ったり、相手の意を汲み取る必要はないんだ。少なくとも日奈乃相手には――。

『……正しい知識を身につけて、困っている人を助けたいと思ったんだ』

 こんなふうに自分の本音をさらけ出すのはいつぶりなのか。妙な照れくささを感じる俺に日奈乃は笑顔を向けてきた。

『うん。わかる。稀一くん、昔から誰にでも優しくて私が困っていたらいつも助けてくれたよね』

 そこで彼女から小学生のときの思い出が語られる。俺がはっきりと弁護士になると決めたきっかけになった出来事だ。
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