エリート弁護士との艶めく一夜に愛の結晶を宿しました
 数日後、諸々の手続きをうちの父親が進めることになり、家族で川内家を訪れる。予想以上に妻を亡くした武志さんは参っていた。

 両親が彼の話を聞いている間、俺は日奈乃の部屋に歩を進める。ノックすると短い返事があり、素早くドアを開けた。

『ひな』

『稀一くん、なにかとありがとう。間宮家にはたくさんお世話になったけれど、お母さん、嬉しかったと思う』

 俺がなにか言う前に、まるで用意されていたメモを読み上げるかのごとく日奈乃は早口で告げてきた。うっすら笑みを浮かべている彼女に、俺は大股で近づく。

『俺の前では無理しなくてかまわない』

『無理、してないよ』

『してるだろ』

 歯切れ悪そうに答える日奈乃に対し、強く言い切る。視線を落とす彼女に俺は続けた。

『武志さんにはうちの両親がついているから大丈夫だ。なにも心配しなくていい』

 その発言でおもむろに顔をこちらに向ける日奈乃に寄り添い、そっと彼女の頬に触れた。

『俺はいつだって日奈乃を信じて守っていくよ』

 いつかの台詞を返すと、日奈乃の瞳が揺れ、みるみるうちに大粒の涙があふれ出す。そのまま抱きしめると彼女は抵抗せず、俺の胸で静かに泣き始めた。

 予想以上に日奈乃の肩は細く、華奢な体は強く抱きしめたら壊れそうだった。彼女の頭を撫でながら、これからは誰よりもそばで彼女を守っていくと決意する。

 同情でも兄的立場としてでもない。他の誰にも譲らない。

『私のこと信じて守ってくれるんだもん』

 あのときみたいに笑っていてほしいんだ。ずっと俺の隣で。
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