エリート弁護士との艶めく一夜に愛の結晶を宿しました
 父が倒れて、容体が思わしくないと病院で聞いたとき、私は自分が思った以上に使い物にならなかった。

 二年前に母を亡くしたばかりなのに、父までと思うと震えが止まらず、ペンを持つのもままならない。

 手術の同意書、近しい人への連絡、会社への報告や手続きなどしなくてはならないことは山ほどあったが、それらは病院に駆け付けた稀一くんや稀一くんのお父さんが率先して行ってくれた。

 申し訳なさと同時に、稀一くんがそばにいてくれて、私は本当に救われた。私のためというより父のためなのが大きかったのだろう。

 彼は仕事が忙しいのにも関わらず、時間が許す限り私たち父娘に付き添ってくれた。

 母が亡くなったときも親子共々間宮家に支えられたのを思い出す。稀一くんのお母さんは母と仲が良かったから残された私を気遣って、よく声をかけてくれるようになった。

 稀一くんよりも一緒に食事をしたりと会う頻度が高くなったくらいだ。

 そういった経緯もあり父の容体が安定しないうちは、病院が家から離れているのもあって比較的病院や職場に近い稀一くんの実家でお世話になった。

 いつ病院から連絡がくるかと気が気ではなく、普段はひとり暮らしをしている稀一くんもあのときは実家に泊まって私を心配していた。

 最初こそ動揺して生活もままならなかった私だが、徐々に落ち着きを取り戻し、なんとか事態を受け止め自分を立て直した。

 いつまでも間宮家に甘え続けるわけにもいかない。
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