エリート弁護士との艶めく一夜に愛の結晶を宿しました
 母のときもものすごくお世話になったし、個人的なつながりがあるとはいえ、稀一くんや彼のお父さんは父との会社の付き合いがあるからこそ、こんなにもよくしてくれるんだ。

 稀一くんに対する恋心に再び火がつきそうになる。幼い頃は憧れと理想のお兄ちゃんみたいな存在で、それこそ彼の気持ちもおかまいなしに、純粋に後を追いかけた。

 稀一くんは優しいから直接拒む真似はしなかったが、ずいぶんと困らせたに違いない。

 けれど成長していく中で、彼に対する想いが異性に抱くものへと確信を伴って変貌していくにつれ、自分の想いが実らない現実が見えてきた。

 年の差や今までの関係や立場は、どうしたってなかなか変えられない。彼が私の扱いを出会った頃から変えないように。最初から相手にされていないんだ、私は。

 散々思い知る機会があり、子どものときの自分の行動を振り返ると羞恥以外のなにものでもなく、今さら彼との距離を縮めるために動くのも憚れた。

 何度も溢れ返りそうになる自分の気持ちに今度こそ蓋をしようと決める。

 母が亡くなったときも思った。稀一くんの優しさを勘違いしてはいけない。

『日奈乃、よかったら家に来いよ。俺のアパートも病院から近いし』

『そうね、結人(ゆうと)のところに来たら?』

 あるとき、父の見舞いに来た伯母と彼女の息子である従兄の結人に提案された。

 伯母は他県に住んでいるが、結人は私のふたつ年上で、「ビッグ・チーズ・ワールドワイド」に勤めており、アパートを借りて一人暮らしをしている。
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