エリート弁護士との艶めく一夜に愛の結晶を宿しました
 そんなある日、武志さんが意識を失って倒れ、病院に運び込まれる事態となった。病院に駆けつけた日奈乃は、ひどく取り乱し、すぐに事態を受け入れられなかった。

 俺と父親は医師から代わりに説明を聞き、武志さんの手術や入院などの手続き、会社への連絡などを行う。

 日奈乃をひとりにしておけず、しばらくうちの実家から職場や病院に通ったらどうかと両親と共に提案し、彼女も受け入れた。

 最初は生活もままならず仕事にも行けなかった日奈乃だったが、徐々に落ち着きを取り戻し、実家でも笑顔を見せるようになった。

 もちろん武志さんのことが心配で堪らないのは、毎日時間を見つけては病院に通い詰める姿からも伝わってくる。

 相変わらず意識が戻らない武志さんに、日奈乃は根気強く話しかけた。

 俺は帰国してからは実家を出てマンションに暮らしていたが、このときは極力実家で過ごし、日奈乃のそばにいるようにした。

 誰かに頼まれたわけでもなく、俺自身が彼女のそばにいたかったのだ。

『稀一くん。あの、私は大丈夫だから。ご両親もよくしてくださっているし、稀一くんは、自分のことを優先させてね』

『どうした?』

 武志さんの見舞いに付き添った帰り、助手席に乗った日奈乃に唐突に切り出され、俺は思わず尋ね返した。

『だって、こんなに私に付き合ってもらって……彼女に悪いよ』

『彼女?』

 予想外の単語が彼女の口から飛び出し、俺は目を見張った。対する日奈乃はうつむいてぎこちなく答える。
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