エリート弁護士との艶めく一夜に愛の結晶を宿しました
 彼の優しさに甘えて、その心地よさに触れ続けると戻れなくなりそうな気がして。彼の厚意を素直に受け取れない自分が憎い。

 そもそも稀一くんはどうなの? 稀一くんのご両親の気持ちはわかったけれど、稀一くんは……。

 尋ねようとした瞬間、車が停まった。どうやら彼の家についたらしい。外に目を向けていたら突然手を取られた。

 驚きで隣の運転席を見ると、シートベルトを外した稀一くんが真剣な表情でこちらをまっすぐに見据えている。

『日奈乃、結婚しよう』

 彼の口から飛び出した言葉があまりにも意外なもので私の思考は停止した。それほどに衝撃が大きかった。

 だって私たちは幼い頃から交流があったもののそれは全部家族ぐるみで、付き合うどころか、想いを通わせ合ったこともない。

 ただ、私が一方的に稀一くんに恋心を抱いていただけ。

 放心状態でいる私の手を稀一くんはしっかりと握り直した。伝わる温もりは確かで、私はようやく意識を彼に向ける。

『こんなときに持ちかける話じゃないのは理解している。でも他人だから気を遣うって言うなら家族になればいい』

 ああ、そうか。彼は私のことを好きで言ってきたわけじゃないんだ。がっかりしたような、腑に落ちてホッとしたような。

『……そういう問題じゃない気がする』

『嫌なのか?』

 苦笑してさらりと返そうとしたものの力強い眼差しは向けられたままで私はなにも言えなくなった。すると彼はわずかに表情を緩め、空いている方の手を私の頬に伸ばす。
< 14 / 120 >

この作品をシェア

pagetop