エリート弁護士との艶めく一夜に愛の結晶を宿しました
『俺がそばにいる。日奈乃をひとりにさせない。ずっと守っていくから、なにも心配せずイエスと言ってくれないか?』

 彼の言葉が心の奥底に沁みて胸が苦しくなる。迷惑をかけたくない。嫌われたくない。でもそれ以上に、ひとりになるのが怖い。そばにいてほしい、大好きな彼に。

『なにそれ、稀一くん、優しすぎだよ。そんなふうに言われたら……私、断れないよ』

 最後は涙が零れそうになってうまく声にならなかった。嘘でも夢でも、私を励ますためだけだとしても、彼がそこまで言ってくれて嬉しかった。

 それからほどなくして父の意識は無事に戻り、容体も安定した。心から安堵して関係者をはじめお世話になった人々に挨拶とお礼を告げる。

 稀一くんや稀一くんのご両親にも。私はこのとき先日受けた彼からのプロポーズについて深く考えるのをやめていた。

 もしかすると、素直に甘えられない私に気を使い、私を力づけるために勢いで言っただけなのかもしれない。なかったことにされてもなんら不思議ではない状況なのも理解している。

 だって私たちは付き合うどころか両思いだったわけでもないから。

 ところが意識が回復した父の面会に稀一くんと一緒に訪れた際、彼は結婚する旨を父にはっきりと告げた。

 驚きのあまり私は病院なのにも関わらず「えっ!」と叫んでしまった。戸惑う私をよそに稀一くんはこれからのことを手短に父に伝えていく。
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