エリート弁護士との艶めく一夜に愛の結晶を宿しました
 反対などされるはずなく父は顔を綻ばせて喜び、稀一くんにお礼とお祝いの言葉を述べていた。私が口を挟む余裕さえない。

 面会時間は短く設定されていたので、状況についていけないまま私は父にまた来ると告げ、彼と共に病室を出ていく。

『稀一くん、その私と結婚って……本気なの?』 

 不安げに尋ねると彼は整った顔をわずかに歪めた。

『日奈乃は、俺が冗談で結婚を申し込んだと思ったのか?』

『そ、そうじゃなくて』

 稀一くんの性格的にも職業的にも気軽に結婚などと言うわけがない。わかってはいるものの頭がついていかない。

『……結婚相手、私でいいの?』

『ひなが俺でかまわないなら』

 私にとって稀一くん以上の男性なんていない。告白された経験はあってもつい稀一くんと比べて彼への恋心が邪魔をして踏み出せなかった。

 今、その彼本人から父の体調は関係なく改めて手を差し出されているんだ。彼自身の意思で私を望んでもらえている。

 少なからず稀一くんも私と同じ気持ちでいてくれたのかな? じゃないと結婚なんて申し込まないよね?

 目の前の現実に胸と頬が熱くなる。
 
『……よろしくお願いします』

 かしこまって頭を下げると稀一くんは目を丸くした後で軽く噴き出した。
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