エリート弁護士との艶めく一夜に愛の結晶を宿しました
 本能的に目を閉じると唇に温もりを感じる。幾度となく繰り返される、触れるだけの口づけに勝手に体に力が入ってしまう。

 嫌な気持ちはひとつもないのに、初めての経験に戸惑いが隠せない。

 唇が離れ、稀一くんがこちらをじっと覗き込んできた。きっと私は情けない顔をしているに違いない。

 気まずさに目を逸らそうとした瞬間、額にキスが落とされる。

『おやすみ、ひな』

 優しく囁かれたものの、まさかこれで終わりとは思ってもみなかったので私は目を見張った。

『あの、稀一くん』

『武志さんの心配をしながら結婚や引っ越しとずっと落ち着かない日々を過ごしていただろう』

 そう言って彼は立ち上がった。目で追う私と視線が交わる。

『今日はゆっくり休めばいい。俺はまだすることがあるから』

 静かに告げて彼は寝室を出ていった。稀一くんの言い分は私を気遣ってのもので、彼の優しさに感謝すべきだ。でも、この状況を心から有難いと思えない。

 言い知れぬ寂しさを抱えて私はベッドに潜る。隣の皺のない無人のベッドを視界に捉え、小さくため息をついた。

 でも、そうだよね。結婚生活はまだ始まったばかりなんだから……。

 疲れていたのも事実で自然と瞼が下りてくる。

 とりあえず明日は稀一くんが起きる前に支度を整えて、朝食の準備をしよう。少しでも彼の役に立ちたい。結婚してよかったと思ってもらいたいから。
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