エリート弁護士との艶めく一夜に愛の結晶を宿しました
 ところが、何事も最初が肝心なのだとこの一件の後で痛いほど身に染みた。

 初夜をなにもなくやり過ごしてしまったばかりに、結局稀一くんとは、キスより先の関係に進まないまま一ヶ月が過ぎようとしている。

 キスをして抱きしめられて、それなりのスキンシップはある。でも、どちらもいい大人なわけだし。

 さらにいえば結婚しているのに、この状況はどうなの?

 付き合っているだけならいざ知らず、結婚して一緒に住んでいて俗に言う清い関係のままなのはいかがだろう。沢野さんの言っていた産休や育休は今の私にとっては、夢のまた夢の話だ。

 やっぱり、初手を完全に間違えたのかな。

 父もだいぶ回復してきて、少なくとも命の心配をする段階はとっくに超えた。私を気遣ってこの状態になってしまったのなら、やっぱり私から行動するしかないとは思っている。

 とはいえ、男の人の誘い方というのか、どうしたらいいのかさっぱりわからない。こんなとき経験のない自分が憎い。


 午後十時前。お風呂に入ってパジャマに身を包んだ私はリビングのソファで肩を落とし、テレビのリモコンに手をかけた。

 毎週チェックしている唯一のドラマの放送があったから。稀一くんとの関係は一度置いておき、今はドラマに集中しよう。

 好きな女優が主演を務めているのをきっかけに見始めたのだが、交際ゼロ日で結婚した夫婦がお互いに向き合っていくという内容に、つい自分たちの関係にシンクロさせてしまい、すっかり夢中になっていた。
< 19 / 120 >

この作品をシェア

pagetop