エリート弁護士との艶めく一夜に愛の結晶を宿しました
「いいの。録画しているから」

 番組録画予約を設定し、リアルタイムで見ても見なくても自動で保存されている。続きが見たい気持ちがないわけじゃない。今はそれよりも……。

 私は慌ててソファの真ん中から少し隣に移動して座り直した。そんな必要がないほどソファは十分に大きいのだけれど。

 その行動が功を奏したからかどうかは不明だが、稀一くんは私の左隣に腰を落とした。続けて私はぎこちなく彼の腕に自分の腕を絡めて身を寄せる。

 これがいつのまにか私たち夫婦の暗黙の了解になっていた。忙しい彼と触れ合える大事な時間が私にとっては大切で、他のなにをおいても優先したい。

 空いている方の手でそっと頭を撫でられる。いつもなら私から仕事や今気になっているものなど、なにげない会話を切り出すのに今日は黙ったままでいた。

「疲れてるのか?」

 稀一くんの心配そうな声が耳に届き私は首を横に振った。伝わる温もりに安心し、彼の逞しい腕に頭を預ける。

 幸せだな。

「稀一くんは、私と結婚してよかった?」

「もちろん」

 素朴な質問には、素早い返事があった。そこまでは予想済みだ。

「本当?」

 今日はもうちょっと踏み込んでみる。相手が虚を衝かれているのが伝わってきた。絡めていた腕の力を緩め、おもむろに顔を上げるとすぐそばにいる稀一くんと目が合う。

「毎朝、律儀に起こしに来て、いつも帰りを待っていてくれている。料理上手な日奈乃には、感謝しているよ」

 穏やかに微笑んで告げられた回答に、どういうわけか胸がざわめく。どうしてだろう、ここは喜ぶところじゃないの?
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