エリート弁護士との艶めく一夜に愛の結晶を宿しました
 自問自答し複雑な想いを振り払いたくて、じっと訴えかける眼差しを彼に向けた。

 しばらく見つめ合った後、どちらからともなく唇を重ねる。ほどなくして唇が離れ、今度は珍しく強引に私から彼に口づけ、キスの続行を願う。

 稀一くんは一瞬、目を見開いたもののすぐに応えてくれた。そのことに安堵して大胆に彼の首に腕を回し、より密着する姿勢を取ってみる。

 私にできるのはそこまでで結局口づけは、稀一くんのペースになる。次第に深くなるキスに、少ない経験ながら必死に応じる。

「っ、ん……」

 甘い口づけに翻弄され、頭がぼーっとして身も心も蕩けていく。本能的にもっと欲しくなる。

 ところがそんな私の気持ちと相反して稀一くんはわずかに距離を取りキスを終わらせた。やや息を切らせた彼はこのうえなく色っぽくて、私は呼吸どころか脈拍まで乱れそうになる。

 なにを言われるのかとドキドキしながら構えていると、彼は複雑そうに微笑んで、私の額に唇を寄せた。

 その行動になんだか泣きそうになった。なぜならこれはいつも終わりの合図だから。

 稀一くんは自分のタイミングで好きに私に触れるのに、こうして私から求めると毎回中途半端なところで距離を取られる。

 最初は気のせいかと思っていたけれど、偶然じゃない。皮肉にも今、はっきりした。

 なんで?

 そう聞きたいのに私も息があがって声が出ない。やっぱり思い違い? でももしも意識的にされているのだとしたら……。尋ねるのが怖い。
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