エリート弁護士との艶めく一夜に愛の結晶を宿しました
 それは、もしも稀一くんからほかに好きな人ができたから別れてほしいって言われたら私はどうするのかってこと?

「……たぶん、ショックで寝込んじゃうかな」

 平静を装い、極力冗談混じりに答えた。ところが、声が震え笑顔も作れずあきらかに失敗した。

 うつむいて一度唇を噛みしめる。

「きっとすごく悲しい。苦しくて、だったらどうして私と結婚したのって責めるかも」

 なにをムキになって本気で答えているんだろう。最初に尋ねたのは私で、稀一くんは話の流れに合わせて興味本位で聞いてきたただけかもしれないのに。

 でも、想像すると胸がじゅくじゅくと膿んだように痛む。真面目に受け取って馬鹿みたいだ。

 そのとき頬に手を添えられ、強引に上を向かされた。せめてもの抵抗にと瞬きを堪え、目を見開いて稀一くんをただ見つめる。すると彼は困惑気味に微笑んだ。

「仮定の話で泣かせるとは」

「な、泣いてない!」

 間髪を入れず否定する。とは言ったものの、泣きそうになっているのは事実で私は指先に力を込めた。

 自然と自分のパジャマの端を握り、生地に皺が寄る。

「泣くのを我慢するとき、服の裾をギュッと掴む癖、昔から変わらないな」

 指摘され、反射的にパッと手を離す。我ながらほぼ無意識だったけれど言われてみたら幼い頃からそうかもしれない。

 稀一くには見抜かれていたんだ。

 他愛ないもしもの話で感情的になって、まるで子どもだ。今度は恥ずかしさも相まって居たたまれなくなる。
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