エリート弁護士との艶めく一夜に愛の結晶を宿しました
 うっすらと生理的な涙が視界を滲ませた。

 やめてほしくない。でもこれ以上、キスしていたら自分が自分でなくなりそうで怖い。ふたつの感情がせめぎあう中、そっと唇は離された。

 稀一くんはわずかに息を乱して、こちらを至近距離で窺っている。私は懸命に肺に空気を送り込み、肩で息をした。

 言葉が出ないまま焦点を合わせて稀一くんを視界に捉える。

「あの、私」

 なにか言わないといけない気がして声を発した瞬間、稀一くんに強く抱きしめられる。顔が見えないのは残念だけれど、慣れ親しんだ彼の匂いに安心する。

 昔からずっと憧れて想い続けてきた。大好きな稀一くんと結婚できて私、幸せだ。

「好き」

 気持ちが溢れて彼の背中に腕を回しながら呟いた。より密着しようとする私とは反対に、稀一くんは身動ぎする。

 どうしたのかと思った途端、予想外の出来事が起こった。

 なぜか稀一くんは私の背中と膝の裏に素早く腕を回し、そのままひょいっと私を抱えて立ち上がったのだ。

「え? え?」

 混乱する私をよそに、稀一くんは私を子どものように抱きかかえた状態で歩を進め出す。しっかり支えられているとはいえ、バランスを崩さないように私は稀一くんの首にしがみついた。

 彼が向かった先は寝室で、いつもの見慣れた部屋なのに彼が足を踏み込んだ瞬間、心臓が跳ね上がる。

 ここまできても私は稀一くんの意図が読めない。また距離を取るため? 
< 26 / 120 >

この作品をシェア

pagetop