エリート弁護士との艶めく一夜に愛の結晶を宿しました
「いつも言ってるだろ、俺にとっては日奈乃が一番大切なんだ。たとえ日奈乃が俺をどう思っていても」

 私の心の内を読んでか、稀一くんが強く言い切り歩を進め出す。最後の補足は私が離婚を申し出たからだ。

 本当はその件について問いただしたいに違いない。けれど稀一くんは私の体調を気遣って、あえて口にしないんだ。

 海外出張から帰ってきたばかりの彼に突きつける話ではないのはわかっていた。でも、どうしても一刻も早く白黒はっきりさせたかった。

 早くしないと、離れられなくなる。どんな理由であれ、伸ばされた手を私は一度とってしまった。この手の温もりも優しさも知ってしまったから……手放せなくなってしまう。 

 自分の都合ばかりでごめんね。

『稀一くんって昔から自分のことは後回しだもんね』

『否定できないな』

 それで結婚までしちゃうんなんて、稀一くんお人よしすぎるよ。

 彼の本音次第では、別れると決めた。今、私を一番に思っていてくれてもそれは愛じゃない。

 この先、稀一くんに愛する人が現れたら私は、きっと敵わない。あのドラマみたいな展開になりかねないんだ。

 助手席に座り、ぼんやりと運転する彼の横顔を見つめた。稀一くんは運転するときとパソコンに向かうときは眼鏡をかけているので、また雰囲気が違う。

 整った綺麗な顔は見ていて飽きない。ずっと会いたかった彼がすぐそばにいる。 手を伸ばしたい衝動に駆られたが、ぐっと堪えて座席シートに体を預ける。
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