エリート弁護士との艶めく一夜に愛の結晶を宿しました
「……な。日奈乃」

 名前を呼ばれ、底に沈んでいる意識を懸命に浮上させる。

「稀……一、くん?」

 いつもならぱっと目が覚めるのに、ここ最近、ずっと起きるのがつらい。

 ゆっくりと身を起こし、続けて込み上げる吐き気に口元を押さえる。

 病院で妊娠が発覚し、しばらくは胃の不快感だけですんでいたが、日を追う毎につわりの症状ははっきり現れ、生活に支障をきたしていた。

 とくに朝起きてすぐと夕方から夜中にかけて吐き気が止まらず、為すすべもない。

 稀一くんから手渡されたグラスに口をつけ、吐くのを覚悟で私は喉と胃を潤していく。

 中身はレモン味の炭酸水だ。炭酸のシュワシュワした感じが少しだけ吐き気を軽減してくれる。インターネットで調べてあれこれ試した結果だ。

「大丈夫か?」

「うん、ごめんね」

 稀一くんにグラスを返しつつ謝罪する。とにかく眠くてしょうがない。でも、仕事に行かないと。

 フラフラの私を稀一くんが支える。 

「謝る必要はない。朝ごはん、準備してるから、なにか少しでも口にできるものがあったら食べておけ」

「……ありがとう」

 立場がすっかり逆になってしまった。前は私が朝の支度をして、稀一くんを起こしにいっていたのに。
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