エリート弁護士との艶めく一夜に愛の結晶を宿しました
 支度しなければと部屋を出てリビングに向かうが、誰の気配もない。稀一くんは自室で仕事をしているのかも。

 一応、顔を出しておこうと彼の部屋のドアをノックするが、返事がない。電話している気配もなかった。

 私は迷った末、そっとドアを開ける。するとそこにはデスクチェアに背を預けて、目を閉じている稀一くんの姿があった。息を殺して忍び足で彼のそばによる。

 パソコンはつけっぱなしで、スクリーンセーバーが起動し、手元には分厚い本や英語でまとめられたいくつもの資料が乱雑に置いてあった。

 作業中に眠ってしまったらしい。

 疲れている……よね。

 稀一くんの寝顔を見つめ複雑な想いを抱く。

 森崎さんから稀一くんの仕事がどれほど大変なのか聞くまで、私は彼の状況をまったくわかっていなかった。

 それなのに今日も私のワガママに付き合ってくれた。今日だけじゃない。いつも私への気遣いを欠かさず、家事も今は彼が担っている割合が多い。

 稀一くんの負担が大きすぎるよ。

 その原因が他の誰でもない私のせいなのだと思うと、申し訳なさと同時に苦しくなる。

 たとえ愛がなくて結婚したとしても、私と結婚してよかったって思わせると意気込んでいた。ところが現状は真逆だ。目の奥が熱くて意識せずとも息が詰まる。

 そのとき持ち歩いていたスマートホンが手の中で震え、反射的に部屋から出て、通話ボタンを押した。
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