エリート弁護士との艶めく一夜に愛の結晶を宿しました
 私の職場は「ビッグ・チーズワールドワイルド」の関連会社のひとつで、英語を使った事務作業に特化している。

 クライアントの多くが外資系企業なので、担当者が日本語に不慣れな外国人の場合も少なくはない。彼らとやりとりし日本語及び英語資料の翻訳、得意先や協力会社とのスケジュール調整、対応などを行う。

 プロデューサーアシスタントと呼ばれ、父のコネ入社だと思われたくなかった私は、本社ではなく専門職としてここの採用試験を直接受けた。本社に比べると規模は小さいが、その分アットホームで人間関係も良好だ。

 幼い頃から英語が好きで、父の仕事の都合で何度かアメリカに行ったのも影響しているんだと思う。

 夏休みは短期留学やホームステイなどに充て、長期留学の経験はないものの英語学習に励み、それなりの能力は身についている。

 父の仕事にまったく興味がなかったわけでもないので、今の仕事と状況に私は満足していた。完全週休二日制でお給料もそこそこよく、福利厚生もしっかりしているのも魅力のひとつだ。

 作業が一段落した後、隣接する休憩スペースで一息つく。外国語を扱うのは想像以上に集中力を使うので、休息は適宜自分のペースでとることになっていた。

川内(かわうち)さん、カタリーナ・テレコムから送られてきた追加資料は確認した?」

「はい。この後、取りかかります」

 川内は私の旧姓だ。結婚前から働いているので、職場では入籍後もあえて名字を変更しなかった。ももちろん結婚の事実は周知しているが、周りも『川内さん』と呼び慣れているし、私自身正直まだ間宮姓には慣れていない。

 話しかけてきたのは同僚の沢野(さわの)さんで、ベテランだが嫌味がなく入社したときから気にかけてもらっている。彼女はコーヒーカップを片手ににこりと微笑んだ。
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