エリート弁護士との艶めく一夜に愛の結晶を宿しました
「あの、稀一くんは……やっぱりニューヨークに行きたいんじゃないの?」

『それに、年末だったかしら? ニューヨークの事務所で何年か経験を積まないかって所長に言われたの。けれど彼、結婚するからって断ってね』

 森崎さんの言葉がずっと引っかかっていた。それから父のお見舞いに行ったときに、たまたま稀一くんのお父さんもいて、そういう話になったこともある。

『ニューヨーク州弁護士の登録手続きをしているから、彼もある程度、あちらで実務経験をするつもりだったと思うんだけれど』

 留学経験も踏まえると、彼の弁護士としてのキャリアを考えたときやっぱりあちらでの実務経験が必要なんじゃ……。

「行くよ」

「え?」

 稀一くんの回答に我に返る。瞬きせずに彼を見上げていると、稀一くんはそっとベッドに膝をつき私と視線を合わせた。

「でも、そのときは日奈乃と子どもも一緒に、だな」

 それはいつの話になるんだろう。少なくともここ一年の話ではない。本当はもっと前に打診されていたのに、いいんだろうか。

「……私、稀一くんの人生プランを邪魔してない?」

「邪魔? 計画通りだよ」

 つい卑屈な気持ちで尋ねてしまったが、稀一くんから間髪を入れず返事がある。稀一くんは眉尻を下げ苦々しく笑った。
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