従者は惜しみない愛を捧げる―――流浪の落ち延び姫と双頭の獅子
 たとえば剣術の稽古で、勢い余ったアマーリアがリナルドの上に倒れ込んだことがある。そんな時でさえ落ち着き払っていた彼が、凍りついたように動けずにいた。

 だがアマ―リアが右手を伸ばし、頬の傷にそっと触れると、リナルドは弾かれたように後ろに下がった。

「アマーリア様、お戯れはおやめください。俺のような卑しい者が、王女様に触れていいわけありません。第一、控えの間には侍女のエンマもおりますし」
「いいえ、エンマはいません。今日の夕方、暇を出しましたから」
「アマーリア様」
「今この屋敷にいるのは、わたくしとあなただけです。そして願いをかなえてほしい相手も……あなただけ」

 その誘いがどれほどはしたないものか、アマーリアもよくわかっていた。

 それでももう始めてしまったのだ。アマーリアが正しい道を選ぶためにも最後まで進むしかなかった。

「リナルド、わたくしは――」

 再び近づいて頬を撫でようとすると、リナルドはその手をそっとつかんだ。

「後悔なさいますよ」

 アマーリアを映す緑の瞳は悩ましげに揺れている。

 けれど常に敬意と忠心に溢れた彼の視線に、ごくたまに濃厚な欲望の色が混じることに、アマーリアはずいぶん前から気づいていたのだった。
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