御曹司にビジネス婚を提案されたけどもしかしてこれは溺愛婚ですか?
玉ねぎのせいで泣きじゃくる玲音が見られたり、美味しくできた時にご満悦の顔を拝めたり、ビジネス婚というのを忘れてしまいそうになる。

「どうやったらこんな所に粉が付くのですか?」

そう言って玲音が私の首筋を撫でたのはパン作りに勤しんでいる最中だった。

結っている髪が落ちてきてそれを手の甲で()けようとして付いてしまったのだろう。

私の首筋を拭くように撫でながら玲音が柔らかい表情を見せている。見ようによっては笑顔にも見えなくはない。

少しは心を許してくれるようになってきただろうか。

「ありがとうございます」

「来週結婚式ですね。考え直すなら今の内ですよ」と玲音が言った。

こんなに幸せな日々を過ごしているのに今更何を言っているのだろうか。
彼は楽しくないのだろうか。

それとも子供ができないから玲音がこの結婚を考え直したいのだろうか。
父親の願いを叶えるために子供ができる可能性の高い女性を選び直したいのだろうか。

忙しくなり、以前よりは営みの回数が減った。

それを愛情が減ったというような考えをせずに落ち着いていられるのはビジネス婚だからだろう。
それにどんなに忙しくても毎朝私が作った朝食を食べる時間は作ってくれる。
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