S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う

藤谷の後に綾美が続く。朋久に問いかけているというよりは、ひとり言のようだった。


「教授にはご報告が遅くなり大変申し訳ございません」


朋久が真っすぐ腰を折ったタイミングでコーヒーと和菓子が運ばれてきた。写真の通りのかわいらしいフォルムに笑みが零れる。

朋久は一緒に置かれたシュガートレイから角砂糖をひとつ、さり気なく菜乃花のカップに入れた。


「もうひとつほしいな」
「和菓子も食べるのに、そんなに甘くするのか? 太るぞ」
「いいの」


結婚前の恋人同士らしく振る舞うのを忘れていつもの攻防戦を小声でしていたら、藤谷から強い視線を感じた。


「……本当に彼女と結婚するんだね?」


念を押すように確認する。もしや兄と妹以前に、親娘のような幼いやり取りに感じ取られてしまったか。
彼が疑り深いのは本当らしい。嫌味っぽい感じはないが探るような目を向けられ、菜乃花は耐えきれずに俯いてしまった。
< 116 / 300 >

この作品をシェア

pagetop