S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う

「ええ」
「綾美との縁談を回避するためのでまかせではなく? いや、失礼なことを言うようで悪いが、一ヶ月ほど前に会ったときにはそんな話などしていなかっただろう? ずいぶんと急だね」


藤谷の言葉にヒヤッとする。嘘だとわかっているみたいに自信満々だ。綾美も懐疑的なのか、父親に同調するように頷く。

しかし冷静な朋久は、このときとばかりに用意していた婚姻届をテーブルに置いた。


「でまかせでここまで用意はしません」


藤谷と綾美が揃って息を飲む。さすがにそれを出されるとは予想もしなかっただろう。
これを準備して正解だった。


「ふたりのサインはもちろん承認欄に父の署名ももらっていますので、教授にもご署名いただけないでしょうか」
「だが、婚姻届の準備くらいなら嘘でもできるだろう」


まだ怪しんでいるらしい。一瞬怯んだかに見えた藤谷は、鷹揚に微笑みながら椅子の背もたれに体を預けた。
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